ムカつく。オレは頭の中に渦巻いていた感情を叩きつけるように、目の前の男にぶつけた。それでもこいつは、まるで犬のように上条という見知らぬ男の背中を見つめている。不機嫌そうにひん曲がった口を開いたかと思えば、上条、上条と。お前のナンバーワンの頭にはその単語しかないのかというくらいのしつこさに、いい加減にしろとブチ切れて、あいつの女みたいに細い身体を押し倒してやったら、あいつはまた上条と呼んだ。
上条、上条、上条。既にその名前すら鬱陶しく、一方通行への苛立ちは増すばかりだ。ムカつく、と今度は真っ白な首筋に噛みついて、わざと目立つようにくっきりと赤い跡をつけた。するとようやく一方通行は垣根を睨んだ。まるで気持ち悪いと言いたいかのような、刺々しい視線だった。だが垣根はそのの蔑視に快感すら見いだした。今、真っ赤に燃える瞳に写っているのが、自身だけであると自覚するとさらに満たされた。

「一方通行、本当は気づいてるんだろ」

なにが。一方通行はすっとぼけたように呟いた。垣根はにいっと厭らしく笑う。

「怪物は報われねえんだよ」

醜い嫉妬心に燃える俺も、一人の男に執着するお前も決して救われるわけがないのだ。

/健気ごっこ