女、キス、セックス。垣根が愛してやまないもの。 オレだって一応は女という性別が当てはまるのに、どちらかと言えば巨乳のアメリカンサイズの女が好きな垣根にとって、オレのような男か女かも判断しにくい貧相な体つきのガキは論外らしい。あまり酷い言いように一度垣根の骨という骨を粒子レベルで粉砕しようかとも思案したが、垣根のせいで警察のお世話になるなんてまっぴらだし、そんな下らない理由で人生を台無しにしたくはない。 とにかく、垣根はいつだって女のケツを追っている。暇さえあれば、だらしなく腰を振っている。飽きたら、次の女に嘘っぱちの愛を囁いて、また性行為に興じる。実に最低な男だ。 中学3年となり、進路もなんとなく決まってきた夏休み。扇風機だけが生暖かい風をぐるぐると回す部屋で机に張り付き、数学の問題をひたすら解く。が、あまりの暑さのせいでやる気も出ず、先ほどから扇風機の前を陣取り、携帯電話に夢中になっているを最低野郎をぎらりと睥睨した。 どうせまた女だろォな。オレはによによとだらしなく頬を緩める垣根にそう冷たく言い放つと、垣根は言い訳もせずに肯定した。垣根が潔い性格で隠し事が嫌いなのは分かっているとはいえ、せめて戸惑ってほしかったオレは暑さと垣根の残酷さへの苛立ちを隠しながら、確認するためにもう一度問いを投げかけた。 「なァ、オマエってオレの彼氏だろ」 垣根はその質問に携帯を弄る手をぴたりと止めて少し時間をおいてから、ああと今思い出したかのようなアホな声を出した。 「そういや、そうだったな」 「おかしいだろ、その間。そもそもオマエがオレに告白してきたンだろォが!好きな女の前で堂々と浮気してンじゃねェよ!!」 「オレ縛られるの嫌だから」 「…頭イかれてンのか。独占欲とかそォいう話じゃねェ。常識を語ってンだ」 「オレが他の女の子と連絡を取り合わないでほしい。独占欲でしょ。もしかしてなんか間違ってる?あ、あとオレに常識とか通用しないから」 「オマエ、ほンとうっぜェ。まじで死ね、百回死ね」 「何とでも言えよ。オレはセックスしないと死んじゃう病だから」 「…俺とはしねェのかよ」 「あー、んー」 「そこで悩むンじゃねェよ…」 一般的な男子高校生なら接吻やら性行といった話題ならすぐにでも飛びつくはずだ。現に女たらしの垣根は誰よりもそういった行為が大好きでたまらないはずなのに、オレとそういうことがしたいとは一度も言われた試しがないし、こうしてオレが誘ってみても垣根は何もしてこない。確かにオレと垣根はたった2つだけの、けれども決して埋めようのない距離があって、垣根にとってオレは小さな子供なのかもしれない。 垣根はいつだってオレの体に性的欲求が湧かないだとか、年下は嫌いだとかどうしようもないことを突き付けてくる。垣根は狡い。狡くて、意地悪だ。 だけど、垣根の周りにいる綺麗な女の子たちは、もっと狡い。オレにないものばかりを彼女たちは武器にして、垣根にその体をいっぱい抱きしめてもらえるだなんて、狡くて、卑怯だ。 垣根はむすっと膨れたオレの頬をさらりと撫でて、くつくつと笑った。 「オレはオマエを大事にしたいから、頑張ってるんだよ」 「はァ?」 「そうゆうこと」 「意味分かンねェ」 「いいさ、別に。いつか分かる」 「…なンか、はぐらかしてねェ?」 「オレはいつだって本気だぜ」 「何が本気だこの変態冷蔵庫。…まァ、あと2年もたったらすっげェ良い女になってるからてめェはそれまで一人で自分の息子でも弄ってろ」 「おいおい、女のくせにその下ネタはねぇよ」 「うるせェ」 「はは、仕方がねえな、楽しみに待っててやるよ」 垣根は柔らかな笑みを浮かべて、額に軽いキスをひとつ落とした。子供の遊びのようなキス。子ども扱いは嫌だと自分で言っておきながら、結局垣根に甘やかされてるこの時間が一番好きで、一番手放したくない。 「垣根、」 「んー?」 「オレはオマエのことちゃンと好きだからな」 「…オレもだよ」 オレはこんなバカで浮気性の最低男がたまらなく、愛おしかったりする。 /グラデーションロマンス 乙女な中学生の百合子ちゃんと浮気性な高校生の垣根君 ×
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