すやすやと眠る少女の茶色い髪を指先で弄れば、少女はふにゃりと幸せそうに顔を綻ばせた。義妹と共に過ごす時と酷似している安堵感に土御門はらしくないと理解しつつも、久しぶりに見る美琴の柔らかい寝顔に笑みを零した。
土御門がどんなに老成していて、汚い仕事を幼い頃から数多くこなしてきたと言えども、実際はたったの十年とその半分くらいしか生きていない。そのせいで、多方面からの仕事が重圧となり、耐え難いときもあった。しかし今こうして何とかギリギリの所で立っていられるのは、舞夏は勿論、こうしてフラフラ何処かに消えてしまう自身を待ってくれる美琴の存在があったからなのかもしれない。
土御門はとうの昔に救いなど諦めた。神など信じてもいないし、どん底のような地獄も数え切れないほど傍観し、放置してきた。生き急ぐあまり、明日か明後日の命すら保証はできない。裏切り、嘘を吐き捨て、また仮面を重ねていく。それがどんなに危険なことだとしても、美琴のような存在がこうして日常を生きていけるならば何があっても構わない。
土御門は美琴の頬を撫で、自身もさっさと寝てしまおうとサングラスを外す。すると美琴は、ゆっくりと重い瞼を上げて、朧気な瞳で土御門を映す。

「土御門、せん、ぱい?」
「すまない、寝てていいぞ」
「ううん、いいの、それよりも先輩」

美琴はふわふわとしたままの表情のまま、首を横にふり、土御門がはいれるように身体をずらした。

「おかえりなさい、先輩」

土御門はサングラスを机に置き、美琴の細い体を抱きしめた。泣きそうになるのを堪え、美琴の柔らかい匂いに包まれる。美琴は何も言わず、土御門の背中に手を回す。

どうか、この時間だけでも壊れないように。
どうか、この少女だけでも守れるように。

「…ただいま」


/柔らかな夜をなぞるように


ゲロ甘
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