何となく気になってしまう人がいた。今時珍しい日本人らしい名前の白い髪の女の子。いつもひとりきりで、いつもつまらなさそうに窓の景色ばかりを眺めている赤い目の少女。それだけならまだ不思議な少女という認識だけで終わっていたのだろうが、ある日彼女は道路に飛び出して車にひかれそうになった猫の代わりに、重傷を負った。先生に頼まれて緊張しながらもお見舞いに行って初めて会話をしたとき、彼女はむしろ死にたかっただけだと感情も見せずに俺に告げた。それからも彼女の生き急ぐ姿を見つけては、お節介だとわかりつつも放置しておけず何度も手を伸ばした。でも彼女は手を振り払い、触るなと声を荒げた。彼女はひとりであることが義務だと勝手に決めつけ、死のうとする。俺はそんな彼女をどうにかして救ってやりたいと思った。だけど俺は馬鹿だから、毎晩毎晩、寝る前に彼女のことを考えて、明日は何を話そうとか甘いものが好きだと行ってたから弁当の卵焼きは甘めにしようだとか、役立たずの俺にはそれくらいのことしかできなくて、それでも話しかけると少しだけ嬉しそうに頬が染まる姿を見て、俺も幸せだった。彼女の笑顔は不幸を吹き飛ばして、世界の色を一瞬で変えてくれる。これからも彼女の側で、彼女を守っていきたい。彼女と、ずっと、一緒にいたい。この腕で抱きしめた涙で震える細い身体を抱きしめて誓った。一生ひとりになんかしてやらないと。

家を出たきり帰ってこない両親も、自分のせいで死んでしまった少女も、他人を不幸にしてしまう自分が悪いと知った日から、気づけばひとりになっていた。周囲が暗くならないためなら、それでも構わない。ひとりでいることが、自身がしてきたことの償いになるのであれば、ひとりのままで死んでしまいたい。それなのに、どうして彼はこんな自分を追いかけるのか。出会ったころからずっと疑問だった。俺に関わっても碌なことはない、幸せになんかなれないに決まっている。なのに彼は自分を不幸な人間だと自身の運の無さに呆れているくせに、自分から抱えなくてもいい不幸に突っ込んでくる。迷うこともなく、戸惑うこともなく、右手を差し伸べてくる。俺は、何度もその手を振り払った。もう近付くな、とも警告をした。でも、あいつは、日に焼けた顔に笑顔を浮かべて、こんなどうしようもない俺に好きだなんて言った。あいつは馬鹿だ。俺なんか、女の子らしくもないし、勉強ばかりであとは何もできないのに、あいつはそれでも好きだって言った。世界が変わると、空の青を初めて美しいと思えた。世界が色づくと、いつしか彼の側にいたいと願うようになった。ぐしゃぐしゃの顔で泣きじゃくるあいつがいるこの世界を好きになろうって決めた。今日、俺とあいつは結婚する。



/とびきり美しい世界になろう