学パロ 「好きな女ができた」 昼休みにコンビニの鮭弁当をつついていた麦野は、垣根の言葉にふうんとつまらなさそうに返事をすると、垣根は不満げに舌打ちをした。鮭弁当を目の前にした麦野はいつもこうだ。鮭にしか目がいってない。ここまで鮭を熱心に愛せる女子高生なんて麦野くらいではないかというくらい、鮭に対して麦野は熱狂的だ。 「んだよ、もっと何かあるだろ。え?誰だれー?みたいなさ。これだからババアは…」 「だれがババアだコラ」 麦野のキツい睥睨に垣根はからからと笑った。やはり会話というものはこうでなきゃつまらない。 「で、好きな女の話だけどさ」 「黙れ」 「はぁ?」 「あんたの色恋沙汰なんざ興味ない。しかしあんたみたいなメルヘンにまともな恋愛できるの?どうせ好きな子に天使の輪っかと純白の翼をつけたり、プリプリピンクのワンピースの姿とかの妄想でもしてんでしょ?」 「…ダメ?」 「…え、まじ?」 「まあ、そりゃ天使だもん、まじ天使だもん仕方ない」 「うわうわうわうわ、引くわ、きっめぇぇぇぇ!!だって、あれでしょ、あんたの好きなのって、あれ」 あれ、と麦野は鳥肌を全身に纏わせながら小刻みに震える指でとある人物さす。はて、こんな場所にあの子がいただろうかと垣根は首をかしげながらも、指先の方向を視線だけでたどると、そこには昼休みだというのに弁当も広げずに机に突っ伏して睡眠をむさぼる我らが第一位様の姿があり、垣根は息を止めた。確かに垣根と一方通行は仲がいい。似ているところもあるし、バカもできるし、憎まれ口も叩き合える。だが、それ以上は決して有り得ない。あっていい話ではない。 「ちっがぁああああああう!!断じて違う!!どうしてあれなんだよ!一番有り得ないし、男だろ!オマエの思考回路の方が気持ち悪いぞ!」 「え、だってあんたら仲良いし…昨日の放課後も二人で帰ってたし…」 「違う違う違う!俺が好きなのは、第一位の妹!!!百合子!!!気持ち悪いこと言うんじゃねぇえええ!!!見ろこの鳥肌!うわ…なんか気分悪くなってきた…おえ…」 「ああ、なーんだ、百合子ねえ。ふーん、納得。でもあの子ってたしか上条のことが…」 「言うな、みなまで言わなくていい」 第一位の双子の妹、百合子。彼女の見た目はほとんど第一位そのものだが、少なくとも第一位よりは愛嬌はほんの少しだけ存在するような無愛想な少女である。現在はレベル0のツンツン頭の男にぞっこんであり、それは本人を除く学校中の公認でもある。 麦野は垣根の望みの薄い可哀想な恋に、ふっと鼻で笑った。 昔から、似た者同士だと言われてきた。意地の張り方も、感情の隠し方も。言われるたびに、なんであんな男と自分が同じレベルで比較されるのかが分からず反発していたが、ここまで来るともしかすると本当にそうなのかもしれない。 「…私もあんたと同じかな」 「?」 「はぁ、ったく、ここまで腐れ縁つぅのもなあ。アンタってほんと気もち悪いわね」 「麦野さん酷い」 「あーあー、もう早く去ね。私は今から鮭弁満喫すんだよ」 しっしっと麦野は心底嫌そうに顔を歪めながら手のひらを振るので、垣根はやれやれと言いながら席を立つ。 「なあ、最後に一つだけ」 「手短に済ませろ」 「…浜面だろ」 「…」 「麦野のことならなんだってお見通しだぜ、なんせ腐れ縁だもんな」 「…きもいんだよ、死ね」 「頑張れよ、俺はずっと麦野の味方だ」 麦野に小さく呟き、さて俺も弁当を食べようかと垣根が自席に近づいたとき、――悪魔がいた。原因は、ここがレベル5専用の少人数の教室だというのに大声でキラキラ光る青春真っ盛りの恋バナをしてしまったからだ。 白い悪魔は三日月のように口元をゆがませる。白く細い腕は机を持ち上げ、明らかにこちらに向かって投げようとしているのが分かり、垣根は苦笑いを浮かべた。 「垣根くゥゥゥゥン?うちの百合子ちゃンがどォしたってェ?」 「あ、死んだ」 ザ・シスコン一方通行のベクトル操作によって物凄い勢いで吹っ飛ばされた机は垣根の顔のすれすれを通過。そのまま窓ガラスを勢いよく粉砕し、地上へと落下する。グラウンドでは不幸だぁぁ!というお決まりの少年の切ない悲鳴だけが響いた。 /例えばこんな青い春 |