男は生まれて初めて心の底からぐずぐずわあわあ泣き出した。生き方を、愛し方を、自身の過ち全てを後悔した。悔やんでも悔やみきれない感情が、滝のようにだばだば流れる。今までのことは全部嘘で、ちょっとリアリティな夢だったのよと誰かが教えてくれる日を待ち続けていた。だけど今更足掻いても遅い。彼はこうして年月を重ねただけの大人になってしまった。引き返すことも、やり直すことも、ましてや道に歩くことも出来ない。見ず知らずの他人の尊い命を奪うことで快楽を得る狂った犯罪者など救いたいと思う酔狂な人間など世界のどこを探しても一人もいないはずだ。それなのに男は生にしがみついていた。生きる理由などあるわけがないのに、どうしてか身近なはずの死がいざ自分のこととなると酷く恐ろしいものに思えた。どうか赦されたい、このまま地獄になんて堕ちたくない、みっともなくとも涎を吐きながらでも生きたいと願った。そんな彼の前に現れた。天から階段のようにおろされた一筋の輝き。ゆらゆら、空と大地の間をゆっくり揺れる。きらきら、網膜を焼き尽くす、強大で神々しい光。救われたいのなら縋ればいい。耳元で誰かが囁く。あまりにも綺麗で透き通ったその声に、火野神作は口元に歪な弧を描いた。

「エンゼルさま」

彼の物語にヒーローは登場しなかった。


/だから、呪わないでね