全く女という生物は良く分からない。ちょっとした事で口を尖らせ、こちらが謝るまで許そうともしないし、名前を呼んでも会話をしようと試みても完全に無視。何かと口うるさい同居人にアドバイスを求めてもみたが、仲直りすればいいじゃんとなぜか楽しそうに言うだけだった。だが、一方通行にとって仲直りとはそれほど簡単なことではない。確かに素直に謝ってしまえばいいという知識はあるのだが、良好な人間関係を築いたことがほぼ皆無なまま成長してきた人間不信にとって、謝罪による仲直りという些細なことにすら慎重になってしまう。そもそも十代にも満たない少女の横暴で強引な姿勢に対して、学園都市の頂点を誇る頭脳でも解決策すらも見いだせず、苛立ってしまう自身が一番どうかしている。これ以上関係を悪化させてしまうと更に面倒なことになるであろうと予測した一方通行は、家を飛び出し、公園のベンチをひとりきりで占拠して、打ち止めと仲直りをする方法を模索した。しかし場所を変えただけで解決するはずがない。それどころかこんなことばかりを考えている自身が情けなくほとほと呆れて、ふっ自嘲を零した。数ヶ月前の自分がこんな下らないことに悩んでいる今の自分を見て、一体何を思うだろう。馬鹿らしくて笑い転げるか、羨ましそうに見つめるのだろうか。どちらにせよ、以前の自分では想像したこともない世界が広がっているのだろう。
「あくせられーた」

穏やかな少女の声が上から降りてきて一方通行は俯いていた顔をあげた。そこにはピンクのジャージ姿のあどけなさが残る少女がいて一方通行はギュッと眉を顰めた。彼女はよく浜面仕上の隣にいて、暗部組織に所属しているはずだ。少女はこのような穏やかな場所に一方通行というあまりにも似合わない存在がいることを不思議に思ったのか、一方通行の赤い目をじいっと見つめて首を傾げた。

「どうしたのあくせられーた」
「オマエには関係ねェ」
「かぜひいたの?」
「はァ?」
「元気、なさそうだよ」
「…」


滝壺はよいしょとお婆さんのような声を出しながら、一方通行の許可もとらずにベンチに座った。一方通行は滝壺とは仲が良いというわけでもないし、下らない会話もしたことがない。一方通行は警戒心を強めながら、滝壺を強く睥睨してみた。だが、ぼんやりと空を眺める少女の姿はどこか日向ぼっこをしている子猫のようで、一方通行に出来ることは盛大なため息を吐くだけだった。

「さっき、らすとおーだーにも会ったよ。あくせられーたは迷子なんだね」
「はァ?」
「私もよく迷子になるよ。その時はねこうやってじっとしてるの。そうしたら、むぎのとかがね見つけてくれるの」
「第四位がねェ…」
「むぎのだけじゃないよ。はまづらもきぬたはもみんな。今日はあくせられーたに見つかっちゃった」

滝壺は嬉しそうにふわりと笑った。

「もんぶらんとえくれあは会話できないけど、あくせられーたとらすとおーだーは違うよ」
「…」
「らすとおーだーはね、あくせられーたにごめんなさいしたいんだって」
「…ったく、めンどくせェな。浜面に連絡はしといてやるよ」

一方通行はポケットから携帯を取り出すと、打ち止めからの着信でいっぱいに溢れていたことに気がついた。やはり女とは良く分からない。一方通行は頭を掻き、ベンチから立ち上がった。

「…今度何か奢る」
「あまいものがいいな」
「了解」

滝壺が笑顔のまま、ありがとうと言ったのを聞いて、一方通行はおそらく自分を探しているであろう打ち止めの元へ足をゆっくりと踏み出した。


/怪獣と花柄

一周年企画