その人は自分を酷く貶し、闇こそが自分の居場所だと言うけれど少女にはそうと思えなかった。身寄りも行き場もなかった少女にとって彼こそヒーロー。少女を眩しく照らす光なのだ。でも彼は、眉を潜めてそれは勘違いだと否定する。恐らく彼は永遠にその事実を肯定してくれない。あれだけの罪を重ねてまだ自分を傷つけては、責め続ける。許されない、許すな。彼は言う。いつかこの能力はオマエを傷つける、と。
夢を見た。瓦礫や戦闘機にヘリコプター、明らかに殺人兵器と思われる重機に囲まれる小さな小さな彼がいた。怪物と蔑まれる彼は、寂しげな赤に少女の姿を映して小さく微笑んだ。唇がごめンなさいと動く。ああ、また彼は一人になろうとする。馬鹿、莫迦、バカ、ばか。少女はそうしきりに叫んだあと、がむしゃらに駆け出した。彼の能力など知らない。反射されようと、突き放されようと、怒鳴られようと、今、彼を抱きしめなければいけない。
何が怪物だ。
何が実験だ。
何が能力だ。
少女のヒーローは、実験を止めた少年ではないし、路地裏の少年でもない。
あの雪原で血反吐を吐きながら、力いっぱいに抱きしめてくれた誰よりも強くて誰よりも弱い、彼だけだ。

「辛かったね、苦しかったね、泣きたかったね。でももう大丈夫だよ、ミサカはここにいるよ。あなたが望む限りずっとずっとってミサカはミサカはあなたの身体をぎゅうって抱きしめながら言ってみる」

折れそうな位に小さな細い身体は、とても暖かい。規則正しい心臓がことりと揺れる。彼の震える腕が、少女の背中にまわった。いつか絶対会おうね。そう囁けば、彼はこくり、小さく頷いた。少女は涙をほろほろ落として、またねと笑った。

「またね、ってミサカ、は…むにゃ」
「ったく…馬鹿は、そっちだっつゥの。大馬鹿がァ」

すやすや丸まって眠る少女の茶色の髪をぶっきらぼうの優しい手のひらでぐちゃぐちゃにした。

/あなたが望むのならば、金の星をふらせましょう。いくらでも、いくらでも、あなたが望むのならば

一周年企画