30 | ナノ

 僕を見つけた妹は僕に向かって手を振ってきた。無視してもよかったのだがそんなことをすると妹の機嫌が悪くなり後で文句を言われるだろう。小さく手を振る。
「お、誰か知り合いでもいたのー?」
「妹ですよ」
「あー、確か彩嘉だったね。今からリハーサルかな?」
 さっきまでジュースを飲んでいた先輩はガサガサとカバンの中を漁り少し折り目が付き皺になったプログラムを取り出した。
「ふーん、全然知らない曲だ。でも彩嘉だしきっと難しい曲なんだろうな。午後の演奏も楽しみだな」
 あんなミスをした後だから演奏なんて聴きたくなかったのだが、途中で帰ることはできるわけもなく休憩時間は終わってしまった。

 午後の演奏は昼食後だからかとても眠たくなってしまう。
 暑くも寒くもない空間で聴こえてくる心地よい音楽眠ってはいけないと思っていてもついうとうとしてしまう。実際うとうとと前後に揺れる頭が僕の目の前にいくつかある。
 暗くてはっきりとは見えないが、僕の前にいる後輩は完全に眠っているようだ。ほかの先輩や顧問に見つかったらお説教が始まってしまう。椅子を軽く蹴る。するとうわっと小さな驚き声を上げ当辺りを見る。目を覚ましたようだ。
 小さく、寝ていたら怒られるよと声をかける。後輩は振り返り小さくすみませんと謝ると再び前を向いた。
「次、彩嘉の演奏でしょ? どんな曲かしら」
 平日だというのに周囲の座席に空席は見当たらなかった。
 僕の後ろにいるのは年配の女性のようで聞こえてくる会話から察するに熱心なファンのようだ。
 ガラガラと椅子や譜面台などを動かす音が止み、アナウンスが聞こえてくる。
 バッと光り照明が点いた。手入れがきちんとされた楽器は全てがきらきらと輝いているように見え、奏者の表情もなんだか自身に満ち溢れているようであった。舞台の下手側にはスタンドマイクがあり、曲中でソロパートがあるのだと察せられた。
 指揮者がお辞儀をして指揮台へ上がった。奏者が楽器を構える動きさえ揃っておりレベルの違いを見せつけられる。



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