28 | ナノ
ステージへの楽器の搬入は予定通りに終わったようだ。高橋先輩が席に座りクラリネットのキャップを外し、そしてぐるりとクラリネットパートのメンバーを見た。その意図は彼女から聞いたわけではないが、きっと掛け声の代わりなのだろう。だから僕は先輩に頷き返した。
学校名と曲名を告げるアナウンスが流され、これまで真っ暗だったステージが明るくなる。後ろから深呼吸する息の音が聞こえてきた。
指揮者が式台に立ち指揮棒を振り上げた。
指揮を見るふりをして指揮者の後ろ客席を見ると平日にしては多くの観客が来ているのが分かった。ステージから見て右側には同じ制服を身にまとった数十人の学生がいた。
客席は暗く表情までは見えないが、品定めしているような視線を感じた。
コンクールに向けた敵情視察といったところだろうか。演奏を聴きに来ている人たちの中で彼らは少し浮いているような気がした。
曲は終盤に入ってきたもうすぐ僕たちのステージが終わる。そう思うと案外あっけないものだった。妹の言っていた通りあまりわくわくもドキドキもしない、そんなイベントで終わってしまうのか、曲も盛り上がりを迎え指揮と演奏が一体化しているような感覚になり始めたときだった。
僕は盛大にミスをした。
リードミス、音を外しピィーっと甲高い音がホール全体に響いた。やってしまった。
観客がざわついた。観客だけではない、演奏をしていた部員たちにも僕を見ている気がした。
今まであった余裕が、考えていたことが消えた。頭が真っ白になる。
演奏は何事もなかったかのように終わりに向かって進む。けれども僕はそれを引きずったままだった。ただ指を動かすだけの機械にでもなったような気分だ。
演奏は終わった。観客たちは拍手をするが、僕はそれを素直に受け取ることができなかった。
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