25 | ナノ

 先輩も妹も別に悪い人ではない。むしろ僕のことを気にかけてくれる人だ。
 けれども心のどこかで彼らと自分を比較していた。別に面と向かって比較されたわけでも下手だと言われたことはない。
 中学時代、先輩がいた頃のクラリネットパートは彼を頂点とした組織として成り立っていた。僕はもちろん他のメンバーもそれに不満はなく、彼がパートリーダーをしていた約1年はとても過ごしやすかった。
 けれども彼が卒業した後、部活動はそれほど楽しいとは思えなくなった。先輩が引退した後、僕はクラリネットのパートリーダーを引き継いだ。
 先輩のようにうまくクラリネットパートを纏めようと努力したが上手くいかなかった。
むしろ先輩を崇拝していた一部の後輩は僕のことを嫌っていた気がする。
 口には出さなかったが彼らも思っていたのだろう。紫苑先輩と比べたら技術も人望も何もかもが劣っていると。
 だから僕は逃げたのだ。先輩からも誘われていたけれどもうどうでも良くなったのだ。

 尚哉君は黙ったままだった。でも、彼も知っているだろう。紫苑先輩が抜けてからのクラリネットパートの雰囲気が良くなかったことを。結束できないまま崩壊しかけていたクラリネットパートを、敏い彼なら気が付いていただろう。
「でも先輩が吹奏楽を続けていてで良かったと思います」
 校門を出た別れ際、尚也君はそんなことを言った。


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「見えない臓器の名前は」
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