23 | ナノ

 それじゃあ、まずは僕が楽器を組み立てるから見ていてと言い、彼が理解できるようにゆっくりと楽器を組み立てる。
 じっと見ている視線が痛く思える。彼はそれだけ真剣に観察してくれているというのがうれしい反面、僕にはそんな熱量はもう残っていないことが少し申し訳なく思えた。
「それじゃあ次は説明するから江原君が組み立ててみて」
 組み立てた楽器を一度ケースに戻し、背後で観察していた彼に声をかけた。
「クラリネットはキイっていう銀色の部分をなるべく握らずに組み立てます。変形したら吹けなくなってしまうし。まずは下部分から組み立てていこうか」
 ベルと呼ばれる部品と下管と呼ばれる部品を指さすと彼はそれらを取り出した。先ほど説明したキイを握らないということをしっかり守ってくれていた。
 自分がごく普通に行っていることも一つ一つかみ砕いて説明することが求められているからか人に何かを説明することはとても難しいと感じた。
 ともあれ、楽器の組み立ては問題なく終わり、僕は上手くとまではいかないが説明ができたことに安堵した。

 楽器の組み立てが終わって少し時間が経ったころ、部長が指揮台の前に出てきて今日の予定について話し始める。
「最後に吹祭とコンクールについての連絡です。1年生は今のところ経験者の人は吹祭に出てもらおうと考えています。吹祭が終わるまで未経験者は基礎練が中心になると思います。パート分けはパートリーダーと相談して決めてください」
部長はそう話すと自分の席に戻っていった。
「ということだから村瀬さんと上村さんには吹祭の練習をしてもらいたいのだけれど、希望パートってある? ちなみに私がセカンドで奏がファースト、林君がサードだから好きなところ選んでくれていいよ」
部長の話が終わった直後、高橋先輩は2人に話しかけた。ただ彼女たちはどこか戸惑っているように見えた。
「それは例えば後輩の私がファーストをしたいと言えばファーストができるっていうことでしょうか?」
「もちろん。でも、2人ともファースト希望だったらバランスの問題もあるし話し合うことになるけれど。とりあえず好きなパートを選んでくれたらいいよ。後輩だからファースト吹いてはいけないなんてルールはうちにはないから。それで何がやりたい?」
そう言いながら楽譜を2人に見せた。村瀬さんはそれぞれの楽譜をじっくり見たあと
「ファーストがやりたいです。上村さんはどうしたい?」
「じゃあ、サード吹こうかな」
そんな会話をしながら楽譜をもらった後輩2人は楽譜をファイルにしまった。

「先輩、さっきから話題に出ている吹祭って何ですか?」
彼女たちから少し離れた場所にいた江原君は聞き慣れない単語だったからか、少し困惑しながら聞いてきた。
「県の吹奏楽のイベントのことでコンクールみたいに順位がつくわけではないからどちらかというと演奏を聴いて楽しむのがメインのイベントだよ」
「そんなイベントが……。全然知りませんでした」
「日程が体育会系の大会とかと被るし平日開催だから知らない人も多いと思う」
「ちなみに何の曲を演奏するんですか?」
「去年流行った曲のメドレーを演奏するよ。コンクールの曲の練習とか、新入生も加わるからできるだけ短い期間で練習できる曲がいいっていうことで決まったんだ」
「へー、今回は演奏できないけれど面白そうですね! ほかの学校の吹奏楽部ってどんなのか知りませんし」
「ほかの学校の演奏も勉強になるし聴いていて損はないと思う」
「そうそう! 特に彩嘉の吹部はすごいぞー」
 いつの間にか隣に来ていた高橋先輩がそう口を挟む。
「彩嘉は滑り止めで受けましたけどそんなにすごいのですか?」
「県大会は大体金賞取っているし年に一回は演奏会をやっているし、よくイベントにも参加しているよ。この前だと商店街のイベントで演奏していたみたいだよ。私も聴きに行きたかったなー」
「大盛況だったみたいですよ。拍手が鳴りやまなかったって妹も言っていました」
「へえ、そうなんだ。そうそう、これからパート練習なんだけど、上村ちゃんと村瀬ちゃんはこっちでパート練習に入ってもらって江原君は個別練習で林君に任せてもいいかな。男子同士のほうがやりやすいと思うし。運指とかロングトーンについて教えておいて」
「了解です。それじゃあ江原君移動しようか」
江原君に譜面台を持ってもらいパート練習の場所である廊下へと向かった。
 誰かに指導するなんて中学以来だった。



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