21 | ナノ
「先輩は知らなくても問題ないことです。それに俺は先輩がそいつと同じ高校でなくてよかったと心底安心しましたから」
「そう言われるとますます知りたくなるよ」
誰なんだと僕が聞いても尚哉君は意味ありげに笑うだけで教えてくれなかった。
翌日から新入部員の指導が始まった。女子部員2人は自分のクラリネットを持ってきたようで早速組み立てに入っていた。
初心者である江原君のクラリネットは学校の備品の中から選ぶこととなり使われず保管されていたクラリネットの中で1番新しいクラリネットが渡された。
「これが今日から使うクラリネット。ケースカバーに緑色のミサンガがついているものって覚えておいて」
江原君は僕から楽器を受け取るととても大事そうに両手で持ちなおした。中学時代、初めて学校の備品が渡されたとき僕もこんな風に持っていたのだなと、しみじみとした懐かしい思い出がよみがえった。
江原君にちょっと待っていてと伝え僕は入り口近く、楽譜が乱雑に積まれた机の引き出しからリードが入った青い袋を2つ取り出した。
「江原君、まずはこっちの2半のリードを使ってみて」
青い袋に数字の2と1/2と印刷されたリードを彼に渡した。
「この数字って何ですか?」
「リードの硬さを表しているものだよ。硬さによって吹きやすさや音が変わるからまずは一度吹いてみていまいちだったらこっちを使ってみて」
僕はもう1つ3と印刷されたリードも持ってきていた。そちらも江原君に渡し、どちらが使いやすいか試してもらおうと思っていた。
「へー、ちなみに上村さんたちはどれ使っているの?」
「3半で江原君が使おうとしているリードと同じメーカー」
リードにもメーカーとかあるのと感心しながら彼は彼女にさらにリードについての質問をするが、急に話しかけられおどおどしているだけで彼女は答えようとはしない。
「それじゃあ、村瀬さんは?」
「私は3半のリードだけれど多分違うメーカーのもの」
そういって彼女は灰色の箱からリードを1枚取り出した。
「へー、それはどう違うの?」
「こっちのほうが吹いていて音がよかったから」
「うーん、音の良し悪しとまだかわからないや」
江原君の言葉にそれはそうだと言いたそうな顔をして彼女は先ほどからびくびくとしている上村さんの方に話しかけた。
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