16 | ナノ
「今から楽器体験で吹いてもらうのはクラリネットという楽器です。リードと呼ばれる薄い葦の板を使って音を出しています。」
高橋先輩が説明を始める。もう何回も聞いているから正直僕は飽きてしまっていたのだが、最後のグループには江原君と尚哉君がいた。もう一人彼らと一緒になった女子生徒はどういうわけか涙目だった。
樋口先輩はどこか苛立っているようだ。それはそうだ。目を輝かせながら聞いている江原君や真面目に聞いている女子生徒はともかく尚哉君だ。
腕を前で組み、指先でたたいている様子は見ていて気分がいいものではないだろう。高橋先輩は気にしていないようだが樋口先輩はきつい言葉を言いだしそうな雰囲気だった。
そんな険悪なムードの中、楽器体験は終わった。一触即発であろう先輩と尚哉くん。そんな2人を気にせず和気あいあいとしていた高橋先輩と江原君、僕とペアになった女子生徒は最後までオロオロとしていてとても可哀そうであった。
今のところ楽器経験者はわかっている範囲で5人、そのうち2人がクラリネットだ。残り10人くらいの中からもう一人を選ぶことになるだろう。
「先輩方は今のところ誰がいいと思いますか?」
僕としてはやる気もありなおかつ男子生徒で話しやすい江原君だといいのだが決定権は先輩たちにある。だから僕はさりげなく聞くことしかできない。
「うーん、私そういうのよくわかんないけれど一番やる気があったのはさっきの男子生徒だね。奏はどう? 誰かいいと思った子はいた?」
「一人いる。けれど、その子はサックスにとられそうだから何とも言えない」
最後の一人を選ぶのは難航しそうで、さらにクラリネットに人員を割いてくれるかもわからない状況だ。
どうか彼の希望している通りになってほしいと自分のことでもないのに願わずにはいられなかった。
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