13 | ナノ
「また一緒に演奏できるのはとても嬉しいけれど尚哉君はどうしてうちに来たの? 吹奏楽部の強豪校だって行けたはずだよ。入学式で尚哉君を見つけてからずっと疑問だったんだ」
「それは……」
彼はどうしてここに来たのだろうか? 今なら彼に聞ける気がしたのだが彼は言いたくないのかそれに先ほどまでの笑顔は消え視線をさまよわせている。
それでも彼は慎重に言葉を選びながら答えようとしていた。
それを遮ったのは廊下から聞こえる複数の足音と男子生徒の声だった。
「すみません! 吹奏楽部の体験入部に来ました!」
元気いっぱいの男子生徒の声が廊下に響いた。男子生徒が2人も来るなんて珍しい。
彼はクリアファイルの中から1枚のプリントを取り出し僕に渡してきた。
「入部届です! これからよろしくお願いしますね!」
細くきれいな字で部活名と江原玲於奈(えはられおな)と彼の名前が書かれていた。1人が入部届を提出したのを皮切りに複数の生徒が入部届を僕に差し出してきた。リュックの中に入っていたクリアファイルにそれらを仕舞う。
先輩は早く来ないかと思っているとブーブーと僕のスマホが鳴った。電源を入れると樋口先輩から今から音楽室に行くという旨のメッセージが届いていた。
新入部員が待っていることを伝え僕は仮入部に来た部員にこれからどうやって楽器の決めていくのか説明を始めた。
「……なので楽器の経験者の方は中学のときと同じ楽器になる可能性が高いです。一応確認しておきたいので中学校でも吹奏楽部だった、所属していなかったけれど楽器が吹ける1年生の人は手を挙げてください」
尚哉君を含め数人の手が上がる。
手を挙げた人たち一人一人にどの楽器を吹いていたのかトロンボーン、フルート、クラリネットと現在10名ほどが集まっている中で4名が経験者であることがわかった。
「あとは、バリトンサックスだよね」
尚哉君は頷きそして俯いた。
「一度すべての楽器を吹いてもらいます。誰がどの楽器に向いているのか各パートの2、3年生と顧問の意見、あとは本人の希望を鑑みて楽器は決定します。それじゃあ、先輩が来るまで休憩してもらって構いません」
「先輩、ここの部活ってどんな感じですか? 中学みたいにコンクールメンバーはオーディションで決めたりするのですか?」
「ねえ、さっき聞いていたけれどクラリネット吹けるのだよね? 僕クラリネットが吹きたいのだけれどクラリネットってどんな楽器なの? 吹くのって難しい?」
先輩が来るまで自由にしていていいよと話すと、尚哉君は僕のところまでやってきた。 江原君はというと真っ先にクラリネットの経験者である女性生徒に声をかけていた。
「中学のときみたいなものはないよ。人数も少ないし高校から始めた初心者でもある程度吹けたらコンクールメンバーになるし」
どうしてそんなことを聞くのか気になったが彼はそこまで踏み込んだ質問をしても答えてくれない気がした。
江原君たちはというと女子生徒が鬱陶しそうにしながらも教えているようだった。彼は説明されるたびに目を輝かせながら頷いている様子が初めてクラリネットで音を出せたときの妹と同じに見えた。
聞きたいことを聞き終わったのか江原君が女子生徒と別れ尚哉君と僕がいる一年生の集団からは少し離れた場所にやってきた。
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