12 | ナノ
仮入部の期間がやってきた。授業中も部活動のことで頭がいっぱいで授業の内容が全く頭に入ってこなかった。
ホームルームが終わると同時に僕は急いで3階にある音楽室へ向かう。急いでいるのは楽器や椅子の準備をしなければいけないからだ。
せっかく早く教室についたのだが、音楽室のカギは施錠されていた。鍵は顧問の先生が持っているのだが、顧問が受け持っているのは確か樋口先輩たちのクラスのはずだ。それならここで待っていたほうがいい。しばらくスマホを眺めていると廊下から歩く音がした。
こちらに向かって誰かがやってくる。急いでスマホをしまい姿勢を正した。
高校の教室は1階に3年生のクラス2階に2年生のクラスが3階に1年生のクラスがある。だから廊下からやってくる生徒は1年生の生徒だろう。それに音楽室があるのは校舎の端で2つの音楽室とその周辺には家庭科の授業で使う被服室しかない。きっと仮入部のためにやって来た1年生に違いない。
頼りになる先輩はまだやって来ない。うまく対応できるだろうかそれだけが気がかりだった。足音はどんどん近づいてくる。ついに1年生と思しき生徒の姿が見えた。
その生徒は僕が知っている人物だった。
「久しぶりだね。この前の演奏会、聴きに来てくれてありがとう」
僕の目の前にいる尚哉君は気まずそうな顔をしてこちらを見ていた。
「仮入部だから来てくれた?」
そう問いかけるとぎこちなくだが頷いた彼を見てすごく嬉しくなった。
「多分先輩が部室の鍵を持ってきてくれると思うから少し廊下で待っていようか」
彼は一向に話そうとはしない。こんなに物静かな後輩だっただろうかと頭に疑問符を思い浮かべていると先輩と、小さく彼が喋った気がした。
僕よりも背が高い彼が緊張で震えた声で話すのはとても不思議だった。昔の彼はもっと堂々と話していたはずなのに。
「ん、どうした?」
「先輩に渡しておきます」
肩にかけていたカバンの中から彼は1枚のプリントを取り出して渡してきた。
それは彼の名前と力強い字で吹奏楽部と書かれた入部届だった。
「ようこそ吹奏楽部へ。尚哉君が入部してくれて嬉しいよ」
彼から入部届を受け取ると今まで無表情だった彼が安心したような穏やかな顔でそれは僕が知っている彼の顔だった。
「どうして先輩はそんなに嬉しがるのかはわかりません。経験者が欲しかったからでしょうか?」
ただ入部するだけなのにと彼は不思議そうに話す。
「それも少しはあるけれど、1番の理由はまた尚哉君と一緒に演奏できるのが嬉しいからだよ」
「先輩は変わっていませんよね」
「そうかな。尚哉君は変わったと思う。昔より少し大人っぽくなった気がする」
身長また伸びた? と聞くと彼は少しにやりと笑い以前よりも先輩が小さく見えますと話し、いつか大きくなりすぎて教室の入り口とか頭ぶつけないか心配だ、と僕は言い返した。
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