11 | ナノ

 始めたときよりも人だかりができ、演奏する前はつまらなさそうな顔をしている学生もどこか楽しそうな顔をしていた。人だかりに紛れて尚哉君もいるのに気が付いた。僕と目が合うと止めてしまったが、彼は拍手していた。彼はまだ吹奏楽を好きでいてくれるのかが気がかりだったがそれは杞憂に過ぎなかったようだ。
 先ほどまでドラムを叩いていた部長が前に移動し観客たちに向かって部活動の紹介を始めたところで演奏会は終了し、部員たちは後片付けを始めた。
「仮入部の期間になりましたらぜひ第二音楽室まで見学に来てください」
 部長の明るくハキハキとした声が響き渡った。
 来週からは仮入部が始まる。仮入部というのは1週間ほど気になる部活動を見学や活動の体験ができる期間のことだ。
 正式に入部するのはまだ先だがこの学校では仮入部=入部とみなされているため、ここ数日はどの部活も熱心に勧誘を行うのだ。
 来週からが楽しみだと先輩と会話をしているうちにパートでの練習時間が迫っていた。自分のクラリネットと彼女のクラリネットを持ち、先輩は2人分の譜面台を持ってクラリネットパートに割り当てられた教室へと急いだ。
 教室では樋口先輩がすでに練習を始めており、急いで教室に入ってきた二人を一瞥し、遅すぎと少し怒っているようだった。
 部活動は午後6時まで続き外が暗くなってきたところで今日は解散となった。自転車置き場まで来るとほかの部活はまだ練習を行っているようでまだ十数台の自転車が残っていた。

 自転車のカギを解錠し自転車に跨った。高校から家までは三十分かかる。暗くなった道路は不気味だった。不審者が出てきそうな事故が起こりそうで自転車の運転も慎重なものになる。特に街灯が切れかかって点滅している道は、何かこの世のものではないものが出てきそうな雰囲気で早く家に帰りたくなる。
 ただ、家に帰っても誰もいない。父親は単身赴任で遠くの県に行っており母親はほぼ毎日残業続きだ。妹の部活は夜7時過ぎたまに8時まで続くことがあり帰っても明かりは点いておらず家はがらんとしている。部屋にあるスイッチさえ入れれば部屋は明るくなるのだが、それでもやはり誰もいない場所、自分の目の届かない場所から何かが出てきそうで外の些細な物音まで気になってしまう。
 しばらくぼんやりとしているとガチャガチャと玄関の扉が開閉される音がして数秒後には妹が入ってきた。時計を見ると長針が一周していた。
「おかえり、ごはん先に食べる?」
「ただいまー、早く食べたい」
 椅子に座り疲労からか妹はぐったりとしていた。
「いつも思うけれどよく続けられるよね。僕だったら3日で退部していたと思う」
「絶対そんなことはないと思うよ」
「毎日疲れて帰ってくる悠佳を見ていたら入部しても絶対辞めていたと思う。指導も厳しそうだし」
「そう? 顧問よりも紫苑先輩の方が厳しいよ……。今日の練習も散々だったよ」
「昔から自分にも人にも厳しい人だからね」
「そうだよ! 先輩は自分にできることはほかの人もできるって信じている部分があるから。練習の厳しさで新しく入った後輩辞めなければいいけれど」
「大変そうだね」
「大変だよ。定期テストで点数悪かったら補習で練習に参加できないし」
「ほんとよく頑張っているよ」
「紫苑先輩にテストで赤点とって練習に参加できないって報告しに行った子がいたのだけど、紫苑先輩なんて言ったと思う? 普通に授業聞いていれば赤点なんかにならないと思うが、って言ったんだよ。先輩は本当に疑問に思っているからだと思うけれど言われている側からしたら詰問されているようで怖いよね」
「確かに、紫苑先輩って無表情で話すから何考えているかわからなさそう」
「それにさ、特進クラスだから授業内容とかも難しいはずなのに学年上位の成績をキープして毎日練習にも参加していてなおかつ演奏が上手くて。おかしすぎない?」
「すごくハードな学生生活じゃん。あの人いつ休んでいるのだろう?」
「そうでしょう? ほかの部員が同じようにできるわけがないよ」
 毎日楽しく部活に行っていると思いきや意外と悩みは多そうだ。
 妹は吹奏楽が好きだから厳しい練習のある高校に進学しても続けられたのだろう。それだけ熱中できるほどの関心や執着がない僕にはとてもすごいことだと思える。


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