10 | ナノ
入学式が終わった翌々日から新入生への部活勧誘が始まっていた。校門をくぐるとチラシを持った学生が真新しく皴一つない制服を着ている生徒たちにチラシを渡していた。
僕はというとビラ配りをする学生たちを避け靴箱までたどり着くことができた。吹奏楽部が新入生の勧誘を行うのは放課後からだ。
放課後、外にある教員用の駐車場横のスペースで演奏を行うのだ。毎年恒例のもので何人かの部員は入学式での演奏やここでの演奏を聴いて入部したと話していた。今年は何人入部してくれるだろうと考えながら僕は教室に向かった。
放課後になると急いで演奏の準備を始めた。
初めに打楽器から運ぶのだが、丸い形をしたドラムセットは持ちにくく、手を滑らせて階段で落としそうになって冷や汗が出る。
放課後に演奏する曲については誰でも知っているような曲が良いだろうということで、どこかで一度は聞いたことがある国民的アニメの主題歌になった。
「途中で間違えてしまったらごめんね」
右隣にいる先輩が申し訳なさそうな顔をする。今回は譜面台を持ってきていないため楽譜を暗記して演奏に挑む。何回も吹いたことがある曲だが、覚えたはずなのに記憶が飛んでしまうことがあるのでよくわかる。
もう一人の先輩はというと僕たち2人が緊張しているのに対して落ち着いているように感じた。
前を見ると下校していく生徒、何をするのかと興味深そうにこっちを見ている生徒、つまらなさそうにしている生徒もいた。
「ワンッ・ツー」
背後でドラムを担当する部員がスティック(太鼓のバチ)を叩きカウントを始め僕はスウっと息を吸った。
演奏は順調だ。序盤には連符がいくつもあったが、指が動かなかったり変な音が出たりすることはなく今までよりうまくいったと思う。けれども、演奏することに必死で観客の顔を見ている余裕がない。最後の曲を吹き終えると観客の何人かが拍手する。
拍手されるとなんだかうれしくなるのは僕以外も同じようでいい演奏ができたと小声で嬉しそうに話す声が聞こえた。
達成感を感じた後、僕は観客の顔をじっと観察する。
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