9 | ナノ

「今日は久しぶりに会話ができてよかった。また連絡くれると嬉しい」
「先輩、これから個人レッスンでしたっけ? お疲れ様ですー」
 メモ帳から紙を1枚破り連絡先を書いた紙を渡された。
 連絡先は知っているのに忘れたのだと思われたのだろうか。そして先輩はクラリネットの入ったバッグとリュックサックを持って店から出て行った。

「あー緊張した」
 悠佳が大きく息を吐き机に突っ伏した。
「悠佳がいてくれて助かったよ。紫苑先輩と一対一で会話をすることなんて絶対緊張するしうまく受け答えできなかったと思う」
「そう思うなら何か奢ってよ。途中まで雰囲気最悪すぎたし」
 今度ここのチョコレートケーキ買ってきてよとスマホの画面を見せてくる。わかったと答えると妹は喜んでいた。
「紫苑先輩と話すのは先輩が卒業して以来だったけど変わっていないね、あの人は」
「そうだねー高校でも自分にも後輩にも厳しい」
 そのせいでクラリネットパートのみんなから怖がられているけれど、と妹は笑う。
「確かに厳しいけれど案外話してみると優しい人なのにね」
「それは悠真限定だよ。多分男子部員だったからじゃない? 吹奏楽部って女子部員が多いしどう話しかければいいかわからんって言っていたし」
 私は中学からの後輩だからまだ気軽に話しかけられるって。でもそのせいで伝言係頼まれるし、と妹はぎこちなく笑っている。
「それよりも、尚哉君のことだけど。彼から聞いていたんだよね、悠真と同じ高校に行くって」
どこか申し訳なさそうな顔をしている。
「知っていたのなら言ってくれればよかったのに。口止めされていた?」
「指導に行ったときにはうちは受けても入部はしないって話していた。受験が終わるまでは黙っていてくださいって頼まれたの」
 理由までは聞けなかったけれど彼はやり残したことがないからかもねと妹は言う。でも、もしかすると吹奏楽を辞めただけで楽器を演奏すること自体は続けているのかもしれない。
 彼が吹奏楽を辞めてしまったのは少しもったいない気がした。


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