8 | ナノ
「部活はどんな感じだ?」
正面に座る紫苑先輩はミルクも砂糖も入れずにコーヒーを一口飲んだ。
「コンクールで県大会出場という感じですね。全国大会や支部大会を目指すわけではないみたいです。昨年度のコンクールは部員全員で出場しました。特に大きなトラブルもなく……」
「部活は楽しんでいるか?」
「まあ、それなりに楽しいですよ。同期も先輩方も優しい人ばかりですしコンクールにはあまり熱を入れていませんが……。その分地域のイベントや文化祭には力をいれています」
「そうか、楽しくやっているのならそれでいい」
口ではそう言うものの、彼はどこか納得していないような顔だった。
でも今の部活動が楽しいのは本当だ。そうでなければすぐに退部していただろう。中学時代の部活動は忙しく、部員同士、切磋琢磨していた。技術を競い合いコンクール出場のメンバーを決めるオーディションもあった。
競い合っていたあの頃が懐かしいと思うこともあるが、僕には合っていなかった。
メンバーから外れた部員から嫌がらせを受けないかとおびえていた時期もあったほどだ。心配してくれる先輩には申し訳ないが、今の部活のほうが自分には合っているのだ。
「ねえ悠真、そっちの入学式はどうだったの?」
気まずい雰囲気になりかけていたのを察知してか、今までシェイクを飲むだけで会話に入ってこなかった悠佳が話題を変えてくれたのはありがたかった。
「そうだ、そのことで少し驚いたことがありまして。入学式のときに神林尚哉君がいました。彩嘉に入学したとばかり思っていたのですが。彼のことだから高校でも吹奏楽を続けるものだと、いや続けるかもしれませんがうちは大して強い高校ではないので意外だというか」
「あー、尚哉君そっちに行っていたの? うちに来ていなかったからどうしたのかなと思っていたのだけど。そっか、悠真の高校に行ったんだね」
「彼はうちの顧問から褒められていたな。ぜひ彩嘉に来てほしいと勧誘もされていた」
それを蹴ってまでこっちの高校に来るのが僕には少し理解できなかった。彼は僕のように競争を好まない性格ではなかった気がする。
そんな彼が競争も何もない良く言えば平和な悪く言えばぬるま湯に浸かっているような部活に入部することなんて考えられない。もしかすると彼はそんな平和ボケしている部活動をしている僕を見に来たのだろうか?
けれども、そのためだけにわざわざここに来るのは勿体ない気がした。
それとも彼は何らかの理由があって吹奏楽をやめたのだろうか? 謎は深まるばかりだった。
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