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「俺は、竈門炭治郎です!傷の手当てをしていただいてありがとうございます!」
「初めまして、私は鬼殺隊の隠をしております、星灯香と申します。……お礼なんてとんでもない。大変でしょう?鬼狩りのお仕事というのは」

にこり、と笑む。口布が口角を隠しているので伝わったかどうかは定かでないけれど、竈門さんは笑みを返してくれたのできっと伝わったのだろう。隠になって、早三か月。先輩の後藤さんに隠としての基本的な指導していただきつつ、蝶屋敷で胡蝶様という鬼殺隊の幹部らしい方に薬の調合部屋を一つ分けて頂いたり、それを量産したりと忙しい日々が続いている。今日は隠の仕事というより、後者の薬の量産のための薬草採集でこの近辺の山にやってきていたのだけれど、帰る途中で歩いていると、傷だらけの隊士と会ったので、切り傷に効く薬(もちろん魔法薬)を塗ったのだ。すぐに傷が消えたのを見て、金髪の隊士さんは驚愕して折角良くなったのに気絶してしまった。猪頭の隊士さんにも塗ろうとしたけれど、荒っぽく断られた。野生児という感じだろうか、警戒心故に突っぱねられたのはなんとなく伝わったが、そうしたら竈門さんがすごい顔をしていた。というのがさっきまでの出来事。藤の花の家紋の家で休息をと勧めると、なんとここまで休息なしでやっていたらしい彼らにきょとんとされてしまい、頭を抱えた。新入社員には労働制度をきっちり説明してあげてほしい。

「確かに大変ですが、俺は目的のためになら、何だってやります!」
「目的?」
「はい!妹の禰豆子を人間に戻すんです」
「……素敵なお兄様ですね。妹さんもきっと喜ばしいと思いますよ」

羨ましい、と、口にすると、竈門さんは少し驚いたような、悲しむような顔をして、ゆっくり探るように言った。

「あの、灯香さん、俺、鼻が利くんです」
「……」
「灯香さんから、とても言い表せないような悲しい匂いがしました。俺でよければ、話を聞きましょうか?」
「……ふふ」
「?」
「ああ、失礼ですよね、笑ったりして。ごめんなさい」
「いえ……」
「貴方みたいに優しい人がお兄様だなんて、妹さんは本当に幸せな方ですね。つい羨ましがってしまって、私、みっともないなあ」

くすくす笑うと、竈門さんが戸惑っているのが手に取るようにわかって、ええと、と説明する。

「私、自分に家族がいないことを気にしたことはなかったのですけれど、今更になって、それが欲しくなってしまっただけなんです」
「……灯香さん」
「今まで色んな村を転々としていまして、静かに暮らしては、その土地の事情に介入し過ぎないようにしていました。だから、鬼と闘ってしまったり、村に薬屋を開いてみないかなんて言われたら、次の日には立ち去っていたんです。皆私の事を、普通の村娘として見てくれなくなったから」
「……」
「天女、ですって。私。最初そうやって崇められた村では、二、三日薬草を取りに行くと言っただけで、俺たちの事を見捨てるつもりだろう、と妄信した村人に殺されかけまして」
「!」
「あとで死ぬほど村長さんが謝ってくれたけど、最後まで私の事、天女って呼ぶんです。それが嫌で仕方なかった。ただでさえ家族がいないのに、人と違うって思われるの、段々怖くなってしまって。だから鬼殺隊は、私が自分のままでいてもいい場所なんじゃないかって思って、興味で入ったんです。こんな理由で申し訳ないけれど、聞いてくれてありがとう」

俯きがちにぎこちなく笑みを浮かべると、竈門さんはとても悲しそうな顔をして、そうだったんですかと頷いた。ええ、と私は相槌を打つ。やっぱりこんな話、するべきではなかった。ごめんなさいと言おうとして、竈門さんを見上げると、むにっと頬を両手で挟まれた。……うん?挟まれ、た?

「話してくれてありがとうございます!俺は、灯香さんには出来ればずっと鬼殺隊員でいてほしいので、何かあったら言ってください!」
「ひゃい(はい)」
「俺、文を書きますから!灯香さんに」
「あひがほう(ありがとう)」

「テメエ炭治郎!こんな山道で女の子を誑かそうなんて良い御身分だなァ!?」

ぴりっと、指先に静電気が伝ったかと思えば、先程気絶してしまったはずの隊士さんが起きていて、とんでもない顔と剣幕で竈門さんを怒鳴りつけた。頬から竈門さんの手が離され、私たちが戸惑っていると、急に怒りをひっこめた隊士さんがデレッとしただらしのない顔になって私の手を握った。

「俺、我妻善逸!さっきは驚いちゃってごめんねぇ。君、凄い薬を作れるんだねぇ。その上休息できるところまで案内してくれてありがとう……!ここまで優しくしてくれるのって、やっぱり、俺の事が好きだったり……?」
「いえ、仕事ですので」
「がーーーーん!!!」

眼玉が飛び出そうなほど驚いた金髪の隊士さんは、どうやら相当ショックなようだったが、これは日常的な会話なのか、さほど驚いていない竈門さんは彼をなだめようとした。

「そうだぞ善逸。灯香さんに迷惑を掛けちゃいけない」

これで終わるかと思ったけれど、最後に火に油を注いだ人物がいた。

「おいお前、何変な顔してやがんだ。気持ち悪いやつだな」

猪頭の隊士さんの言葉を皮切りに、一体鬼を討伐した後なのにどれだけ元気なんだと思わせるような喧嘩に発展して、兄弟がいたらこんな感じかなあ、と思うと笑みがこぼれた。

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