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「……概要は、以上です」

柱合会議にて、水柱である冨岡義勇が報告した内容は実に突飛なものであった。
しんと静まる御館様のお屋敷の庭で、ちゅんちゅんと鳴く雀の声がやけに響いて、その沈黙を、わなわなと拳を握る風柱……不死川が破った。

「冨岡!頭でもおかしくなったってのかァ?!それが柱合会議で言うことかよ!!」
「不死川さん、御館様の手前ですよ……お気持ちは分かりますが」

ちら、と、蟲柱……胡蝶しのぶが、が冨岡と風柱を交互に見やり、相変わらず言葉の足らない冨岡に小さく息を吐く。それでも納得のいかない風柱が、御館様を見るが、そこには何時ものように静かに鎮座する我らの主導者が、その人差し指を自らの唇に当てていて、それは即ち閉口せよという意であった。さっと、柱が全員姿勢を正し頭を垂れる。
その静かな中で、御館様はゆっくり言葉を紡いだ。

「実弥、これはね、本当の事だよ。信じてほしい」

ふわふわと、穏やかな声音に、呑まれてしまいそうになる。しかし、と、不死川は唸る。

「……冨岡が報告したことは、非現実的すぎます。ボロ屋に入ったら豪華絢爛な西洋造りの家だっただの、その家主が怪しい術で鬼を一晩拘束していただの、その家の家事が手を触れずに行われていただのと、どう、信じろと仰るおつもりか」

確かにそうであった。冨岡は何か血鬼術にでも掛けられてしまったのではないのかと、誰もが思うほど有り得ない事であった。そんな可笑しな人間が、この世にいるわけがない。

「そうだね、確かに私も本人に会うまで完全には信じられないだろう。皆もそうだね」

その言葉に、戸惑いを隠せないものが多くいた。

「そんな人が実際に居たら、素敵だわ」
「俺は信用しない、そんなのはまやかしに過ぎない。冨岡も浅はかな術に掛けられおったものだ」
「本当にそんな芸当ができる奴なら、相当派手なんだろうな!」
「そんな幻影を口にするなど……可哀想に……南無」
「うむ!居るのであれば会ってはみたいが、本当に居るのだろうか!」
「……僕はどっちでも」
「私は興味がありますが……」
「おい冨岡、どうなんだァ」

すう、と、冨岡は、柱全員から注目を浴びる中、天を仰いだ。
この状況で何を、と、不死川が刀を抜こうとすれば、冨岡は静かに、

「この会議のために、天女が山から下りると約束をしてくれた」

そう言うと、彼は隊服の中から何やら取り出しそれを持つ。竹でできた笛のようだった。



「今、渦中の本人を呼んでも宜しいでしょうか」


冨岡は御館様をじっと見つめ、問うた。
すると、彼はにこりと笑んで、肯定する。

「ああ、頼むよ」
「……かしこまりました」

ぴいっと笛を鳴らすと、ビュウ、と風が吹き、その途端、冨岡に何者かが覆いかぶさった。何事かと刀を構える柱の金属音と殺気に支配された中で、その何者かが動いた。その者は鶯色の着物に黄色い帯の、ごく普通の恰好の女だったが、何故か片手に大きな箒をもって、もう片方の手には棒切れを持っている。庭掃除でもしていたのかと言いたくなるような状況に、口を出したい者もあったが、その娘が傾いた冨岡をよっこらせと起こすと、冨岡はこんな現れ方をするのか、と口にした。どうやらこの娘は冨岡が呼んだだけの女で侵入者ではないらしいと判断し、柱の皆は刀から手をのけた。

「こんな至近距離に移動する設計だなんて、私もまだまだですね……冨岡様、大丈夫でしょうか?」
「ああ、だがそれより、御館様の御前だ。星殿、挨拶を」
「はい、お初にお目にかかります、星灯香と申します。本日はお招きいただきありがとうございます」

周りに合わせた姿勢で頭を垂れる星灯香に、皆注目した。平凡にしか見えないのに、突然現れた事やこれまでの噂が、頭の中にちらついていたからだ。

「そんなに畏まらなくていいんだよ、灯香は、不思議な力を使えると聞いてね。もし君さえ良ければ、その力を鬼殺隊で活かしてくれないかな」

まさか、まさか御館様が、直々に勧誘するなど。
ぎり、と誰かが悔しさに歯ぎしりをした。動揺を隠せない者が多い中、星灯香は数秒考えた後に言った。

「私は、術を施すことを生業として生きております。それについてはご協力ができます」
「そうかい、例えばどんなことが出来るのかな?」

それは、此処で何かしてみろ、ということであった。
灯香は周りを見渡して、そうですねえと考える。この先見世物になるような気がしてならなかったので、仕方なしに、では、と杖を振る。

「プロテゴ」

星灯香の杖先が自身に向けられ、呪文を唱えると、本人は満足気に、よし、と呟き、

「どなたか、斬り掛かってきて頂けますか」

笑んだ。

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