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「へえ……日ノ本にはそんな怪物が蔓延っているんですね」
「そうなんだよ。今はそれを討伐する組織で薬を研究してるんだ」

家に上がって、私はリドルとお茶を飲みながら今までの経緯を説明し終わると彼は驚嘆する。
あれから結局諦めてここに泊まることにしたのだ。どうせこの子とは何もありはしないから。
私の話が突飛にも拘らず彼がすんなり理解を示したので、少し見ないうちに騙されやすくなってるんじゃないかと心配がよぎった。

「自分で言うのもなんだけど、教師を信用しすぎなんじゃないのかな。いつか騙されるよ」
「いやですね、先生とその他大勢を一緒にしないでください。神と豚畜生ですから」
「……どこからツッコめばいいの?」
「先生、僕に突っ込みたいんですか?まさかそんな性癖が……。いいですよ、先生になら」
「馬鹿なの?性癖歪んでるのは君の方だよ」

もうやだこの子……会話が疲れる。しかしその脱線した部分を除けばとても飲み込みや理解が速いからそこは買っているのだ。それを知ったうえでこの態度なのだからとても質が悪いんだけど……。
しかし最早この十年間でやらないといけないことは多すぎて私の手に負える領域でもないし、協力者は一人でもいた方がいい。たとえそれがこんな変態でも。

「先生、一つ気になることがあるんですが」
「何?」
「もし呪いを解く方法が見つかったら、先生はあの島国へ帰るわけですよね」
「日ノ本ね」
「その姿のまま行かれるおつもりで?」
「というと?」
「先生は死人なので戸籍がもうありませんから、国境を超える際に必ず面倒が生じます。ポートキーも現在設定していないとなれば必ずパスポートが必要でしょう。僕は今魔法省で働いていますので、戸籍の偽造などお手の物ですが……そのお姿は今や知らない者のいないほど此方の世界では有名です。特に魔法薬学会ではね」

すっかり私が死んでいたことを失念していたことに気が付き、教え子の言葉を頷いて聞いていた。

「ああ……確かに面倒だ」
「先生が以前作っていた薬の中に、性別ごと変えて変装ができる薬がありましたよね。あの薬を長時間効くように調整出来れば別人の戸籍が作れます」
「そっか……って、君魔法省に就職してたの?すごいじゃない。安泰だね」
「はい、今は大臣の補佐官をしています」
「まさかの官僚……」
「しかしもう給料が高すぎて一生あっても使いきれないので辞めようかと」
「斜め上からの自慢……」
「これからは先生とゆっくり過ごせますよ」
「望んでない……」

どんどんと私の目は死んでいく。そんな様子を少し嬉しそうに眺めてカップを口につけ傾ける姿は、官僚よりモデルが向いているように感じる。顔のいいイケメンに生まれたかったものだ。

「先生、善は急げと言いますし早速薬を試してみましょう」
「リドル、あの薬持ってるの?」
「外出する度に日刊予言者新聞の記者からストーキングされては敵いませんから」
「……大変だね」

私は彼が常備していた薬を一錠もらって飲んだ。伸びる背、高くなる視界、短くなる髪に調合の完璧さを感じつつ、私は鏡を覗いた。何やら目の光彩がグレーになっている。それに髪の毛もブロンドのいい色だ。

「どう?うまくいったよね」
「はい。先生は性別に拘わらず魅力的です」
「そういう事じゃないんだけど……じゃあ、このまま写真を撮りに行こうか。それを君に預けたら、あとは戸籍とパスポートの手配を頼んでもいい?」
「喜んで」















――数日後。

「……これ、どういうこと」
「戸籍とパスポートです」
「いや、分かるけど……」

私は背筋に寒気を覚えて言葉が出てこなくなる。
絶対に、ここに来てからあの名前を出した記憶はないのに。
そんな私を他所に、彼はいい仕事をしたと感じているようで誇らしげに言う。

「以前、先生の名前の意味を伺ったことがありましたよね」


――星先生、先生のお名前は英名ではないですよね。どういう意味が込められているんです?
――ああ……うーん、星灯香っていうのは、何だろう。



『キラキラ輝く星(Twinkle star)っていう意味だよ』






「そう仰っていたのを参考に、名前を考えたんです」
「……」
「先生?」
「……のか」
「?」

「私だったのか」

そこに記された名前には、こう書いてあった。

Link・Stewart



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