小説 | ナノ


▼ 15

柱合会議から数日たったある日の昼下がり。
丸一日の休日を頂いた私は、自室で自分がこれからどうするべきかという方針を固めるべく、紙にやるべきことを書いていた。
一つ目は、ハナハッカ・エキスを出来るだけ無痛に近い状態に完成させること。
二つ目は、私の部屋を綺麗に整頓すること(これはたった今杖を振って解決した)。
三つめは……。

「ん……?どうしたのフラミー」

三つ目を紙にしたためようとしている傍の襖を閉めていたのだけれど、部屋の外で放鳥して遊ばせていたはずのフラミーが、バサバサと羽の音をたてて、いつもより格段に早く部屋へと戻ってきたのだった。
魔法でカラス除けもしてあったはずだし、他の鳥にいじめられたとは考えにくいものの、気になった私はすぐに襖を開けた。

「フラミー?まさか怪我でも……」

そう言って襖を開けると、すぐ目の前にいたフラミーが部屋に飛び込んでくる。
まさか、しつこいカラスに追われでもしたのかしらと周りの風景を見渡してはみるものの、決してそんなことはなく……。
一体どうしたのだろうと、珍しく気が立っている彼をなだめ、ケージに戻そうとした。
すると。

「……?何、これ」
「グヴェー」

フラミーの片足には、文が雑に括られていた。まず文通相手の竈門さんが頭に浮かぶけれど、彼はそもそもこのお屋敷にいるし、毎日の検診で会っているのだから必要ないはず。胡蝶様も急でない限りはこんなことをする人ではない。後藤さんは直接部屋に来ることが多い。……と、なると。

「そう……。知らない誰かにいきなり縛り付けられたのね?一体どこの馬の骨に……」

と、その文を解いてみる。フラミーにこんなぞんざいな扱いをして、もしこれが上司じゃなければナメクジ喰らえの刑だなと冗談交じりに思って開くと、一瞬思考が止まった。

「……うん?この人と私、話したことあったっけ」

頭を捻って顎に手を当てる。
何も心当たりがないが、手紙を読み終わると一つ、疑問が浮かんで私は手紙をくくったであろう相手のもとに姿現しを試みた。




――バチッ。

そんな音とともに現れたことを想定済みだったのか、蝶屋敷の門の隣で立っているその燃えるような髪の色を持った紳士は、サッと此方を向き直るとその明るい髪を体現するような明るい声で私に片腕を上げて挨拶をした。

「星殿、急に呼び立ててすまない!」
「いえ……とんでもございません」

そう。私を文で呼び出したのは、炎柱である煉獄様だった。
何故だかはわからないが、私の都合がつくときに門の外へ出てきてくれ。待っている。という、まるでシェイクスピアのロマンスのような手紙に吹き出しそうになったのは私だけではないはずだ。そもそも私は彼と直接話したこともないし、やはり先日の柱合会議での勝手な態度をお怒りなのではと、一瞬身をこわばらせた。

「では行こう!」
「はい……?どちらへ」
「来れば分かる!」
「(ええー……)」

こうして、私は煉獄様と肩を並べて歩くことになってしまったのである。




――道中。

「ところで、星殿は今までどんな暮らしをしてきたのだ!」
「村を転々とする形で、何でも屋を」
「うむ!そうか!では昔からその不思議な術が使えたのか!」
「はい……物心ついたころには会得しておりました」
「なるほど!では、好きな食べ物はなんだ!」
「綿あめです」

こんな調子で、何らかの尋問が続いている。
一問一答……答えられなければどうこうされるのかもしれない。よくよく考えたらあの柱合会議の場でめちゃくちゃ禰豆子さんの斬首推してたもんねこの人……。
しかし顔色を窺えど、何一つ曇りなき眼でいられれば開心術もかけずらい。なけなしの良心が痛むしできれば使う機会がないことを祈って、私たちは会話とも言えないようなやり取りをし、晴れた道を進むのだった。そんな中、幾分か歩くと煉獄様が急に質問をやめた。

「今日のことは、胡蝶には黙っておいてくれ!」
「……?何故ですか」
「今日胡蝶の元を訪れる用事があったのだが、その時に星殿を借りたいと言ったら"彼女は仕事人間が過ぎています。今日も休んでいるか怪しいから無暗に接触しないでください"と、言われてしまってな」

ギクリ。やはり私の休日を組んでいらっしゃるのは胡蝶様で間違いはなさそうだ。
肩を揺らす私に、煉獄様は構わず続けた。

「だが実は星殿が鬼殺隊に入った直後から、俺は君に接触を試みていた!」
「はい?」
「胡蝶が君の腕を大切にしているあまり、最初は屋敷から出すことも渋っている様子で全く了承してはくれなかった!それに君は門限を何度も破っていたと聞く!」
「……その節は、申し訳ございません」
「素直なのは良いことだ!」

キラキラとした目で此方を射抜く煉獄様に、目力の強さを感じながら私は自ら口を開いた。

「あの……それでどうして、今日は私をお誘い下さったのでしょう」

言うと、彼は視線をぐるんと正面に戻してしまった。

「それはまた後で話そう!ところで星殿は、もう昼食をとったか!」
「いいえ……まだです」
「そうか!近くの町にいい蕎麦屋がある!そこに入ろう!」
「……はい」

こうして、インドアな私が初めて休日に上司とご飯を食べに行くこととなった。

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