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▼ 14

あの後、蝶屋敷にて何とかアオイさんを見つけた私たちは、まず竈門さんを病室まで運ぶことになった。
ベッドのあるその部屋までたどり着くと、何やら中から騒がしい声がする。
はて、ぎゃんぎゃんと特徴的で聞いたことのある声だなと思っていると、中には案の定知り合いがいた。
先日竈門さんと一緒に藤の花の家紋のお家に送った我妻さんだ。今しがた失礼な表現をしたことは彼には黙っておこう。
そう心に留める私や、ぼうっとそれを見ている後藤さんに気が付かず、我妻さんはまだ騒いでいた。

「すげえ苦いんだけど!辛いんだけど〜!」
「あわわ……」

蝶屋敷の女の子も若干引いた顔で彼をどうすべきかと手に余している。
そういえば前会った時も確かに騒がし……にぎやかな人だったから、仕方がないのかもしれない。
私は、アオイさんが彼に半ば怒鳴るようにして、きっともう何度もされたであろう説明を辟易とした様子で伝えるのをぼうっと聞いていた。

「善逸!大丈夫か?怪我したのか?山に入ってきてくれたんだな……」
「た……炭治郎。聞いてくれよ〜!」

我妻さんのテンションに一歩引いている私たち隠をよそに、竈門さんと我妻さんは感動の再会を果たしたかと思うと、その頃にはアオイさんも女の子も部屋からいなくなっていた。我妻さんは泣き出して、竈門さんに不安をぶつけ、今は不安のあまり抱き着かれた(犠牲になった)後藤さんの隠装束に鼻水の架け橋をかけている。

「Runny nose bridge(鼻水橋)……ブフッ」
「おい、最初何て言ったか知らねえけど、今笑ったな?星……お前後で覚えとけよ」

ふざけた私は案の定じとりと睨まれる。
私が何を言っているのかやはり分からないのだろう、きょとんとした隊士の二人は、何て言ったんだろうという表情をして此方を見ていた。

「ああ、すみません後藤さん……フフッ。これで許してください。スコージファイ」

それを杖を出して綺麗にすると、どうやら許してくれるらしい後藤さんは特に怒っている様子もなかった。私が言葉を発したからなのか、先ほど我妻さんとようやく目が合った。そして私に向かって彼は驚いたように指をさす。

「あ!!あの時の!灯香ちゃんだよね?」
「はい、お久しぶりです我妻さん」
「こんなところで灯香ちゃんに会えるなんて、俺ツイてる……!地獄に仏だよお〜」

そういってこちらに抱き着いてこようとする我妻さんから若干距離を取って、私はただ微笑んでいる。その様子を見比べた後藤さんは、ぼそりと言いった。

「我妻……だっけ?お前、勘違いしてるぞ」

後藤さんはやけに生気のない目をして我妻さんに話しかけた。

「え?」
「星はな、今お前が飲むのを嫌がっている薬類を作るのがだーーーーーい好きなんだよ」
「これ灯香ちゃんが作ったの?!」

意地の悪い顔で放たれた後藤さんの言葉に驚いた我妻さんは、病人とは思えないような速さで私の方を振り向く。違うよね?と言いたげなその表情に、私は首を横に振った。

「違いますよ。そちらは胡蝶様が作られました。対鬼の薬はあの方の得手とするところですから」
「はあ〜。よかったあ……」
「ただこの後、胡蝶様に作り方を教えていただいたら、その薬は今後私が作ることになると思います」
「!?」
「ほら言っただろ」
「灯香ちゃんまで俺にまずい薬飲ませるのオーーーー?!!!」

多層この薬が嫌なようだったので、もう少し飲みやすいよう工夫して作れるよう試みることを軽く約束すると、絶対にと念押しされた。これは相当美味しくないのか……。胡蝶様だって出来る限りは壮絶な味の薬を作ったりはしないだろうし、ならいっそ砂糖でも舌に敷き詰めてから飲ませた方が早いかもしれない。もし味の調整がダメだったらそうしようかと考えていると、竈門さんと我妻さんは他の隊士の方について話し出した。そして嘴平さんが隣のベッドにいることに気が付かなかったらしい竈門さんが驚いていると、心から嬉しそうに無事でよかったと繰り返す。こうしてみていると本当に、この三人は仲がいいんだということが分かった。そして鬼殺が如何に命がけなのか。なぜ鬼があんなにも憎まれているのか、ようやく理解したような心地だった。
そんな命がけの現場の後ろで、一歩遅れて到着し後始末をする。

「(けれどこのままでいいのかな……)」

という考えに、私は苛まれつつあった。私ができるのはアフターケアで、起こってしまったことをどうこうすることもできない。魔女とはいっても、私は本当に役に立っているのか……。
そんなことを考える中で、弱々しい嘴平さんの声をからかって我妻さんは笑う。その声に私は、少し沈んでいた意識から我に返って、ああそういえばとポケットをまさぐった。

「これをどうぞ」

ピカピカしたその大きいドングリを、マトリョーシカのように大きさ順で横にいくつか並べていくと、心なしか嘴平さんのテンションが上がっているようで私はにこりと笑った。この前森で拾ってきたのだ。いいお見舞い品になるといいんだけど。

「ホワホワする……」
「えーー!何でお前だけお見舞いしてもらっちゃってんの?!いいなああ」
「こら善逸、僻むのはよくないぞ。この間灯香さんは伊之助と約束してたんだから……」
「知ってるけど!俺も欲しいーーー!女の子からお見舞いされたい!」

ブーイングが起こったので、それとなく私は申し出た。

「では今度何か我妻さんと竈門さんにも持ってきます」
「えっ、ほんと?ありがとう灯香ちゃん!!」
「ありがとうございます、灯香さん」
「いえ、とんでもないです。……ではもうそろそろ、私たちは失礼しますね」

そういって踵を返すと、不意に装束の裾を掴まれた。つん、とつんのめりかけて振り向くと、傷だらけの竈門さんが、必死な声で此方に語り掛けるところだった。

「あの……。禰豆子の事を庇ってくださって、本当にありがとうございます」
「いえ。あれは贔屓のようなところもあるんですよ」
「ひいき?」
「ええ。だって……あまりに可愛らしくて素敵なお嬢さんだったものですから」

片目を悪戯っぽく瞬いてみる。彼は妹を褒められたからか、顔を赤らめていた。

「行きましょう後藤さん」

それを見た我妻さんが炭治郎ばかり話してずるいと叫んだり、それを竈門さんが制したりしていて、その中を私は後藤さんの腕を半ば強引に引いて、足早に去った。






「星」
「……なんでしょうか」

あの後禰豆子さんをお部屋に置いてから、私は持ち場である研究室に戻るため廊下を歩いていた。今はとにかく研究に没頭したい。

「お前は本当によくやってる」
「……」
「俺が言えるのはそれだけだ。すまん」
「後藤さんが謝ることじゃないです。私こそ……柱合会議では言動もわきまえず、ご迷惑をおかけしました」
「……明日は雪か?」
「どういう意味ですか」

軽口を叩いているものの、後藤さんは本当に優しい先輩だ。
私が何かに悩みだすと、それをすぐ察知する。

「あんまり思い詰めるな」

鬼の権利と人間の命、どちらが重いかなんて考えても不毛なことはわかっている。鬼があれほどまで身近な人に危険を及ぼすとは思っていなかった。魔法が関与できない範囲でどれだけの人が犠牲になっているのか、今まで蝶屋敷の中や限られた地域でしかほぼ活動してこなかった私には、未だ認識が甘いところがあった。それを、仲間の生傷を見て、会議での禰豆子さんの扱いを見て思い知っただけ。
いつまでも私一人の魔法でどうこう済ませることのできる領域でないことに、改めて崖の上に立たされたような気持ちになる。
返事もせず廊下に立ち尽くした私を責めるでもなく、後藤さんは私の手を引いて研究室と化した自室へ押し込む。

「一先ず寝てろ」

その声が、とても心地よかった。

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