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▼ 12

「(あの人は確か……)」

切り傷を沢山顔に作っている変わった身なりの男性とすれ違う。すぐにそれが誰かは識別できなかったけれど、彼が私を抜き去る際、ゆっくりとその横顔がスローモーションに見えた。ああ……あれは以前私の魔法をお屋敷で見せるときに名乗り出て頂いた、何やら血の気の多いお方だ。彼の後ろを追いかける隠の同僚がすれ違い際、私に目で助けを求めていたけれど、お嬢様の手前、直ぐには追いかけられない。
どんな権利があって私の終えた仕事を白紙に戻すのかしらと、密かに溜め息をついた。

「お嬢様……申し訳ございませんが、禰豆子さんを元のお部屋に戻す許可を頂けないでしょうか」

私はそう口にした。すると彼女は綺麗な黒髪のおかっぱを乱すこともなく振り向いて、にこりとだけ微笑う。今日の濃い色の着物が静かな微笑みに映えるなあ。笑顔がとっても可愛らしいなあ。などと全く関係のないことを考えながらも私は彼女に笑みを返す。
そして深く首を垂れると、ポケットから杖を取り出して傷まみれの彼……不死川様を追いかけた。







「おいおい、何だか面白いことになってるなア……鬼を連れたバカ隊員ってのはそいつかい?」

その頃、既に不死川は柱合会議に集まった柱たちの目の前で禰豆子のいる箱を掲げていた。柱の面々はやや困惑気味に事を見ている。

「一体全体どういうつもりだ?」

血走った眼には殺意を宿し、掌の上の鬼を、そして目の前で縛られている鬼を連れていた隊員をどうしてくれようかと不死川は考えていた。

「困ります不死川様。どうか、箱を手放してくださいませ!」

隠が言うにも何処吹く風で、胡蝶が静かに止めてもそれを一向に手放そうとはしない。
それどころか。

「鬼がなんだって?坊主。……鬼殺隊として人を守るために戦える?そんなことはな……有り得ねえんだよ、バカが!」

叫ぶと、緑がかった日輪刀で禰豆子を刺した――……。



「うっ!!」

禰豆子の呻き声が炭治郎の耳に届いたとき、彼は反射的に身を起して妹を助けようと試みた。

「俺の妹を傷つけるヤツは、柱だろうが何だろうが許さない!」
「ハハハハッ……そうかい良かったなア」

さらに不死川が深く刀を刺そうとしたその時、じゃり、と不死川の後ろで庭の小石を鳴らす音を立て、一人の隠が咳払いをする。

「本当に困ります。不死川様」
「……テメエ」
「灯香さん!」

不死川がこちらに凄みを利かせ、炭治郎に名前を呼ばれたことにより、一瞬で、柱の面々の視線が隠……星灯香に集中した。それにオロオロしている同僚の肩にポン、と手を置くと、彼女は小さく言った。

「ここは代わります」
「あ、ありがとう……っ」

やはり困っていたようで、同僚は彼女に手を合わせて端に下がった。
星灯香はふう、と息を吐くと、至極冷静に努め、不死川と眼を合わせる――……。






どうも皆様。柱の皆さんや竈門さんに注目を浴びていて胃がキリキリしそうな星灯香です。禰豆子さんに剣を刺したままの不死川様がこちらを視線で射殺さんばかりに見つめているのが正直怖いです。

「(でも任務は任務だし)」

お嬢様からの御許しもあったから、と私は口を開いた。

「大変申し上げにくいのですが、私はその箱に入ったお嬢さんを日陰のお部屋に送り届けよという命を賜っております。それを勝手に持ち出されては、隠としての仕事の質を問われかねません。どうかお返し頂けないでしょうか」
「……星とか言ったか」
「はい」
「ハッ、テメエ頭でも可笑しいんじゃねえのかア?」
「と、仰いますと?」
「鬼と分かっていて日陰に置かせて下さいなんざア、出来るわけ無エだろ!」

怒鳴る不死川様の殺気の凄まじいことと言ったら……。
私の目は見る見るうちに冷めていく。感情的になるほどのことでもないけれど、普通に考えれば無抵抗な他所のお嬢さんにグサグサと刀を刺していい訳ないでしょうに。

「相手は嫁入り前のお嬢さんですよ。傷が残ったら不死川様が娶られるのですか?」
「なっ……」

呆れたような半目で問うと、柱の何人かが笑うのが聞こえた。胡蝶様まで笑っていらっしゃる。押し殺すように笑われて腹が立ったのだろうけど、不死川様は一瞬箱に入れている手の力を緩めた。今だ。

「アクシオ、禰豆子さん」
「!!」

呪文を唱えて箱を取り戻すと、直ぐに癒しの魔法をかけた。杖から出た緑の柔らかな光が彼女の箱を包む。全くこれだから後始末は大変なんだよ……。内心不死川様に呆れながらも、私は努めて優しく彼女に声をかけた。

「大丈夫ですか。痛かったでしょう」
「おいテメエ何してやがる!」
「すぐ良くなりますから、もうちょっと我慢してくださいね」
「無視してんじゃねエ!おい星、お前も隊律違反だ。鬼を庇いやがったなア」

鬼を庇った事実が良くなかったのか、殺気がより増した気がする。しかも今度は完全に柱ほぼ全員を敵に回してしまったらしい。ジーザス。富岡様は意外そうに此方を見ているし、胡蝶様はよく読めない表情で、怒ってはいないらしい。竈門さんはハラハラと行く末を案じているようだ。後藤さんは……半分失神しそうになっている。心労をかける後輩で本当に申し訳ない。

「庇っていません治療しているだけです」
「それが庇ってるんだろうがア!」
「あらあ」
「あらあ。じゃねエ!」

私から箱を取り返すべく、不死川様がこちらに刀を振るった。

「鬼を庇うならお前も同罪だア!!」
「やめろ!もうすぐ御館様がいらっしゃるぞ!」

スローモーションでそれが私の目の前に差し迫る。速い。速すぎる。絶対こんなの避けるどころか防御も追いつかない……。目を瞑りかけたその時だった。

「やめろーーー!」

――ガツンッ!!


すごく重たい音がして瞼を開けてみてみると、そこには竈門さんがいつの間にか私の前で不死川様に頭突きを食らわせていたらしい。鼻血を吹き出す不死川様を見て、何というか、少しばかり胸がすくような思いがした。

「テメエ……」
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら……柱なんて辞めてしまえ!」
「竈門さん……」

竈門さん程穏やかな人でも怒ったりするのかと、少し意外に思った。

「ぶっ殺してやる」

などと不死川様が物騒すぎる言葉を口にされたとき、私は本気度合いに少し引き気味でいた。血気盛んも過ぎればマッドだ。
けれど漸く、この争いも止まることとなる。


「御館様の」
「お成りです」

白髪のお嬢様お二人が言うのと、場が静まるのはほぼ同時だった。

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