「はい、というわけでね」
「というわけで?」
「まあ見事にバージルに怒られたわけですがダンテさん」
「そーですね」
「すごいね、バージルの魔神化が見れたよ」
「そーだな」
「なんであんな暴挙にでたの?」
さっきの惨事をものともしないで、なんにもなかったみたいな様子でダンテはスプーンを口に運んだ。ちょっと崩れかけてしまったストロベリーサンデーがみるみるうちに減ってゆく。答えが返ってくるまでにカップは綺麗にカラになった。
「まあ、あれだな」
「どれですか」
「おどかしてやろうと思ったんだよ」
「誰を?」
「おまえを」
「へ?」
「バージルのカッコして、声もまねして、ちょっとからかったらどんな反応するかなと思ったわけだ」
「うわあ」
「まあそこまでいかなかったけどな」
ダンテはソファに寄り掛かって、あーあ、と大きなため息をついた。ソファが軋む。天井を見上げる。組んだ両手で顔を覆って、だめなとこ見られたなあと空気に向かって呟いた。
わりと楽しそうだったけどなあ。さっきの事が頭をよぎって、堪えきれずにわたしは笑った。ダンテはほんとに弟らしいな、とちょっと失礼な事を思った。ごめんごめん、と謝るわたしを、バツの悪そうな顔をしたダンテがにらみつけてくる。目が合うと彼はそっぽをむいて、小さい子供がするみたいに口を尖らせてふてくされる。
「あははは、ごめんって!」
すっかり姉貴の気分になったわたしはダンテの頭をぽんぽん叩いた。ついでに髪をわしゃわしゃ撫でると、落ち切っていない整髪料が指の形をそのまま残して、ねぐせがついてるみたいになった。子ども扱いされたダンテはますます膨れっ面になる。かわいいなあ、と思った。頬がゆるむ。だめなところを見ちゃうのも悪くない。
「しょうがないなあ、ストロベリーサンデー、わたしのぶんも食べていいよ」
「ほんとか?」
「ほんとほんと」
「なら許してやるよ」
「あははは、恐縮です」
袋をがさごそかきまわして、どーぞ、とカップを取り出して渡す。口のはじっこをひん曲げて、ダンテはにんまりと笑った。なんとなく、いつものソファが王子が座る王座にみえた。くるしゅうない、そんな台詞が聞こえてきそうで、わたしはまた笑いを堪えなきゃいけなかった。
光栄です若君!
(ほっぺについてますよ)
「あー」
「どうした?」
「これ。バージルにもおみやげ買ってきたんだけど…さすがに今渡すのはまずいよなあって」
「ふうん。中身は?」
「紅茶クッキー」
「…いや、いいんじゃないか?」
「いいのかなあ」
「バージルもたまには甘いもんを食った方がいいさ。イライラが緩和されるだろ?」
「えーと、イライラさしてんのはダンテだと思うよ」
「それは置いとけ」
「うわあ、置いといちゃうんだ」
「まあ、ダメそうだったら戻ればいいだろ」
「うーん…そっか。じゃあとりあえず行ってくる」
「期待してるよ」
「?うん」