パンダパパンダ仔パンダ そのに

アマイモンはなかなか来ない燐に段々と焦れてきた。
「燐、遅いです・・」
呟いてみると、じわりと破壊衝動が湧く。苛立ちが寂しさを上回りそうになる。
「はわっ・・・パ・・パンダっ!!」
「声が大きいよ、出雲ちゃん」
「だって、朴。パンダ、あのパンダ、可愛いっ!!」
「・・出雲ちゃん、この頃、隠す気なくなったよね。その可愛いもの好き」
くすくすと笑う朴、朴の腕をぎゅうぎゅう掴んで熱視線をアマイモンに投げつけている出雲。
『あの女たちは見たことないですが・・祓魔師の匂いがする・・』
アマイモンは出雲を見て嫌な匂いだ・・とひとりごちた。
身体の方が反応する。着ぐるみの中で手の爪が着ぐるみを裂きそうなほどに伸びる。
「神木、ちょ、用事があるんや。こっち、きぃ」
「なによ、あんた」
「あ・・勝呂くん。こんにちわ」
出雲にぎろりと睨まれ、朴から正反対にはんなりと挨拶をされ勝呂は手招く。
その必死さに二人は疑問を感じつつ、勝呂の方へと去っていく。
アマイモンは自分の手を見て爪の形にぴんと張った着ぐるみに気付いた。
「危ない、危ない。せっかくのパンダが台無しになるところでした〜」
グッパァ、グッパァ。爪を引っ込めて着ぐるみが傷んでないことを確かめる。
「はぁ・・・燐、遅いです。お腹、空いてきました・・」
ギュルルルルル。すごい音がした。
アマイモンは燐の作る料理のことを思い出し空腹に切なくなる。
兄から色々なものを与えられるが、そんなジャンクフードよりも甘い飴よりも、燐の作る黄色くてふわふわした奴のほんのりとした甘さが恋しい。
しっかりと胃袋を押さえられている『地の王』だった。



出雲はまだパンダに心を残しながら、噴水広場を見れる木の影に立つ勝呂のもとまでやってきた。
「なんの用よ」
『他愛もない用事だったら許さないんだから!!』という気迫を込めて勝呂を見る。
「はぁ・・・。危なかったわぁ・・・」
心底ほっとしたように勝呂が言うのに、出雲が眉を寄せる。
「なんなのよ、あんた。用もないのに私のことを犬みたいに呼びつけて」
「犬みたいて・・お前・・・。あほか」
「出雲ちゃん、喧嘩しないで。ね?」
朴が諌めるので、気を取り直して出雲も真摯に話を聞こうとした。
「で、なんなのよ」「あれは『地の王』らしいんや」
勝呂は辺りを気にしながら声を潜める。
「はぁ?!」×2
「しぃぃぃっ。あいつに聞こえるっ」
出雲と朴の二重奏に勝呂が慌てた。
「あ・・、ごめん・・・」
パンダの着ぐるみを気にしつつ、出雲と朴は押し黙った。
「そんなわけで、若先生か霧隠先生が来るまで見張ってるんや」
なるほどと納得はしたものの、出雲は釈然としない。率直に勝呂に尋ねた。
「・・・本当に『地の王』なの?」
出雲に訊かれて勝呂も困惑しながら横に首を振る。
「それは・・分からん」
「はぁ??なによ、それ」
「あれが『地の王』や言うてんのは志摩なんや」
「志摩くんが・・・。彼だけだというなら、間違いってこともあるんじゃないの??」
「出雲ちゃん・・それ、ひどいよ。ぷっ、くすくす」
出雲の言葉を朴がたしなめるが、フォローにはなっていない。
パンダは特に何もしていない。勿論、学び舎にパンダの着ぐるみを来て徘徊しているのだから多少はおかしいのかもしれないが。ただの人間、変質者ということもありうるのではないか・・・。
出雲はちらりとパンダを振り返る。
『・・・やっぱり、可愛い。着ぐるみには罪はないわよね。・・ああ、写メ撮りたい・・・』
「今んとこは様子見るしかない。あいつは奥村を待ってるらしいんや」
「奥村・・なんで、奥村のことを待ってるって知ってるのよ」
勝呂の言葉に出雲がまた噛み付く。
「本人に聞いたんや。『奥村の恋人』なんやて」
「恋人?!」×2
出雲と朴の目が爛々と光る。その様子に勝呂は二三歩引いたくらいだ。
「なんなんや、お前らはぁっ」
「そういえば、あの娘がそんなことを言っていたような・・・」
出雲が思い出したように呟く。
「杜山さんの言っていた奥村君の彼氏のことねっ??」
朴が何処から取り出したのか分厚いメモ帳とシャーペンを手に新聞記者のように勝呂に詰め寄る。
「奥村に彼氏??・・彼女の間違いやろ・・」
「なに言ってるのよ、今時、男同士が流行りなのよ」
再び一歩引き気味の勝呂に詰め寄るのは出雲。その堂々とした発言には些かの曇りもない。
「はやりって・・・なぁ・・」
反論も出来ずに視線を泳がせた先に、しえみと燐が噴水に向かって歩いてくる。
「頼んだのって・・・杜山さんか・・。ってことは、また操られてるのか??」
林間合宿のことを思い出して勝呂が言うのに、出雲が否定した。
「そんなことはないはずよ。あの娘、きちんと授業にも出てたし。奥村が目的なら授業が終わるまで待つ必要があると思う??」
「そりゃぁ・・そやな」
それよりも・・・勝呂は援軍の遅さに顔を顰める。雪男が捕まらないのだろうか・・。志摩はともかく子猫丸が帰ってこないことに懸念を抱く。
「とにかく、あのパンダの中身は男なのね??」
「俺は顔を見てないから、なんとも言えん」
「ちっ、使えないわね」×2
「使えない・・・て・・」
いきなり同級生に『使えない』呼ばわりされた仕切りスキルカンストの勝呂は心が折れた。真っ白に燃え尽きている勝呂を放置して、出雲と朴の二人は興味津々にパンダと燐の遭遇を待つのだった。



秋の夕陽は沈むのが早い。水の近くに居るせいもあり、冷え冷えとしている。
「・・・燐・・」
俯き加減にアマイモンは呟いた。
すると、燐の声が聞こえる。幻聴か?と思いながら顔を上げると、赤く照らし出された燐が近付いて来た。約束した女がやっと燐を連れてきたのだ。
「燐〜〜、待ってましたぁ〜」
アマイモンは待ちに待った『恋人』、燐に飛びつく。ぎゅっと抱き締めると先程までの寂しさがどこかに飛んでしまった。
「・・・どちら様ですか??」
パンダの着ぐるみに抱きつかれて燐は目を白黒させている。
「ああ。僕です」
かぽっと口の部分から顔を出すと燐が目を丸くする。
「・・お前・・・どんな仮装だよ。ハロウィンもとうに終わっただろ」
「可愛くないですか??」
無表情ながら抱きつかれ具合から上目遣いで見つめられて燐は頬を赤らめる。
「・・可愛い・・・。っ//////、着ぐるみが、だぞっ。パンダ、可愛いだろ。な??しえみ」
「そうだね。パンダさんは可愛いよね」
しえみが大きく頷くのに、今の自分の状態を思い出し燐が暴れだす。
「離せ、はぁ〜なぁ〜せぇ〜」
「嫌です。もっと抱きつきます」
ぎゅむ。
「抱きつくなぁ」
「いやです。今、分かりました。僕、寂しかったです」
照れ隠しに暴れていた燐がアマイモンを覗き込む。
「なに言って・・・」
「燐と一緒にいられなくて、すごく、すごく、寂しかったんです」
ぎゅむ、ぎゅむ。
『子供か・・・おまえは』と心の中で呟くものの燐は口元を緩める。
抱き締められて軋む腕をようやく動かしてアマイモンの頭を撫でてやる。
遠くの方で歓声が聞こえたが、空耳だろう。(勿論、出雲と朴の嬉しい悲鳴)
「帰るぞ、アマイモン」
「はい。お腹、すきました〜」
燐に可愛いと言ってもらえたので満足したアマイモンは腕を解いて食事を強請る。
「今日は買い物しないと材料がねぇな・・付き合え」
「はい。僕、黄色くてふわふわの奴が食べたいです」
「黄色・・ふわふわ・・?あぁ、出汁巻きか。お前、好物くらい覚えろよ」
「燐の作るのはどれも美味しいので、ふわふわの奴でなくてもいいんです。でも、覚えなくても作ってくれますよね?」
パンダの被り物がアマイモンの後ろで揺れている。
「///////////。しょうがねぇから、作ってやるよ」
燐は必要とされるのが好きだ。頼られると無条件に手を広げて受け入れてしまう傾向がある。アマイモンは本能的にそれを知っているのだ。
「じゃ、私、コレで帰るね。バイバイ、燐。・・と燐の恋人さん」
「おう、じゃあ・・な・??何?!恋人だと??」
しえみは既に二人に背を向けて歩き出している。
「ちょ、待て。しえみ、誤解だ!!なんだよ、恋人って?!」
「ああ、僕が言いました。あと『スグロ』・・にも言っておきました。構いませんよね?」
アマイモンが思い出したように報告するのに、速攻、言葉を叩き返す燐。
「構うわっ、誤解だぞ、しえみ。おい、しえみぃぃぃぃ」
しえみは振り返らなかった。そして、遠巻きにしていた出雲と朴があらぬ妄想を膨らませていることも、燐は知らない。
勝呂は出雲たちの言葉で再起不能のため、アマイモンの素顔を見ておらず。やっと雪男とシュラが到着する頃には、噴水広場に燐とパンダの姿はなかった。


※以下は余談です(笑)

「なぜ、ここに『地の王』がいる?!」
無駄に走り回ったせいで疲れて寮に帰ってきた雪男を出迎えたのは、パンダの着ぐるみに抱きつかれた兄の姿だった。被り物は外しているせいで、アマイモンであることは視認出来る。
「あ、雪男。おかえりぃ」
「お帰りなさい、燐の弟」
「お前、いい加減にその呼び方やめろよ。雪男に失礼だろ」
「正しい認識ですよ。僕の弟は君だけです、燐」
「や、くすぐったいぞ。いい加減やめろよぅ」
背後から抱きつかれた体勢で首筋に吸い付いているアマイモンを批難してみるも無視される。燐がほんのり顔を紅潮させているので、雪男ですらドキドキするほどの色気があった。
『なんてうらやましい。許さないぞ、地の王!!』心の中で絶叫しながら雪男が燐に毅然と命じる。
「兄さん、それ、粗大ゴミに出してきて!!」
「弟へのスキンシップも許せないとは、心が狭いですね」
呆れたように雪男を見るアマイモン。
「そんなものはスキンシップじゃない!!」
「雪男・・んなに目くじら立てるなよ。でも、ゴミ出しは無理」
思わぬことに燐から断られた。
「なんでっ?!」
「だって、可愛いじゃん。パンダ」
「・・パンダ・・・パンダってそんなに可愛い動物じゃないんだよ!!本当は獰猛な熊なんだよ!!騙されてるよ。着ぐるみの中身は特Aクラス級に危険な悪魔なんだよ、分かってるの?!兄さん」
涙を浮かべて訴える弟の危機感など、鈍感な兄には理解してもらえない。
「ぇえー」
「兄さん!!」
雪男の絶叫と燐の不平のハーモニーを堪能しつつ、アマイモンは燐の匂いを胸いっぱいに吸い込むのだった。


※余談の余談(笑)

翌日、同じ着ぐるみを着た理事長が602号室を訪問したが、燐の目に触れる前に雪男が中身ごと処分したとかしなかったとか・・・。

2011/11/28

コメント:
『パンダは可愛い』その前提公式のもと捏造させていただきました。拍手の予定だったのですが、無駄に長いので仕方なくこちらにup。一応、アマ燐ですが、五万打のお題をクリアしていないので(笑)たまには祓魔塾生とかも書いておきたい。嫌いなわけじゃないんだよ。メフィストが妨害に来ないのはおかしいと思っている皆さん、あなたは正しい。でもこれ以上長くなるのはイヤンという管理人の都合上、端折ってしまいました。すまない、理事長。

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