その男の目的は不明

魔剣の扱いはシュラに習う予定。
この頃は焔のコントロールも安定している。
魔神の焔は相手を傷つけるほかに、相手を守ることも出来るとこの頃知った。

「奥村燐だな?」
断定口調での誰何。分かっているのに確認する必要があるのか?
燐は頬を歪めた。
この頃、こういった族(やから)が良く燐に絡んでくる。
雪男に報告すると五月蝿いので、軽くあしらって周囲に被害が及ばない限り、自主的にお帰り願っている。
林間合宿からこっち、自分が悪魔であることを隠さずに居られることはかなり精神的に楽になった。一応、尻尾は隠しているが。
「そうだけど?」
だから、何?という意味を込めて相手を見る。
「魔神の落胤め、殺してやる」
殺気が燐の身体を貫いて、相手が向かってくる。得物は剣だ。
悪魔の能力のおかげで、相手の動きはスローモーションのように見える。
難なく避けて、手首を叩いて剣を落とす。
落とした剣は足で遠くに蹴りつけ、相手の首に手刀を叩き込む。
力の加減をしたつもりだったが、相手は声もあげずに倒れこんだ。
「見事なものですねぇ」
間の抜けた拍手に振り返れば、全身白とピンクと藤色で装備したメフィストが立っていた。
「見てたなら手伝えよ」
「私がですか?ご冗談を。私は肉体労働に向かないのでね。力仕事は君に任せますよ、奥村君」
「けっ。・・あ、メフィスト」
顔を顰めてから、ふと気付いて悪魔の名を呼ぶ。
「なんです?」
「雪男には言うなよ」
「分かりました。この男のことは此方で処分しておきますね。それにしても、何故奥村先生には内緒なんです?」
「あいつは忙しいからな。こんなことで、心配をかけたくない」
「弟思いなんですね」
揶揄ったつもりはなかったが、燐に睨まれてメフィストは苦笑で返す。
「それにしても体術も型が様になってきましたねぇ。それも、シュラに?」
「いや、これは自己流」
「ほぅ。古武術かと思いましたが、自己流とは・・センスがおありなんでしょうな。奥村流を立ち上げますか?」
「はぁ?」
何を言い出すんだ、こいつは・・・。一人で楽しそうなメフィストを呆れ顔で見ていたら、いつもの人を煙に巻く笑いを浮かべる。
「さて、冗談はさておいて」
「冗談かよ。っつうか、振りがながっ」
「まぁまぁ。気が短い男はもてませんよ」
「余計な世話だっ」
「やれやれ、まだ若いのに・・・困った子だ」
「ガキ扱いすんな」
「私から見ればまだまだ君は卵ですが?」
ふふん。燐は既に返す言葉に疲れた様子で、黙って視線で先を促す。
「奥村君にお使いをお願いしたいのですよ」
「お使い?」
「こちらを」
「なんだ?これ」
「君の師匠に」
「は?」
「半面の彼に、宜しくと言っておいて下さいね」
ズイっと薄いカードのような物を渡されて、燐は無理やり受け取らされる。
「あれは師匠じゃねぇ・・っての」
燐の反論は理事長の耳に届かなかった。お使いの品を渡すと同時にいつものピンクの煙に紛れて消えてしまった。
「ちっ。どうすりゃいいんだよ」
メフィストピンクに白の水玉、よく理事長が首に巻いているスカーフと同様の包みをぴらぴらと振る。
「・・実はあいつの差し金なんじゃねぇの?」
燐は頭をぽりぽりと掻く。
「誰が、誰の差し金だって?」
頭の上から声がした。燐が見上げると、太い楡の枝に逆さにぶら下がっている男がいた。
中国面の口元にほくろ。メフィストの言っていた、燐の『師匠』だ。
「おまえが、メフィストの・・・だよ」
「メフィスト?誰だ?それ」
「・・・」
惚けているのか、本当に知らないのか。燐には判別がつかない。
「お前、本当に何者?」
「さぁて、俺は誰でしょう?」
半面の男は明かされている口元だけでにやりと嗤う。口元には雪男と同じところにほくろ。背格好も同じくらい。でも、雪男じゃない。それは燐の中で疑うことのないところ。
「言ったろう?俺の正体が知りたいなら、この面を外せるくらいになってみろ」
次の瞬間、枝を揺することもなく地面に降り立ち、燐の首を狙って回し蹴りを繰り出す。
それを後ろに跳躍することでかわした燐は、逆にその足首を受け止めて腹に拳を叩き込んだ。しかし、身体を捻って回避され、面が迫ってくる。
視界一杯の面の奥にある瞳が青いことを知った。
「まだまだといったところ、かな」
懐からメモ帳を取り出してシャーペンでなにやら書き込む。
「取り敢えず、相手の初撃の見極めがまだ甘い」
「なっにぉう、ちゃんと交わしたじゃんか」
燐の反論に仮面の男は指を左右に振る。
「かわした初撃は弾くべきだ」
「なんでっ?」
「足首を受け止めたとき、どうなる?例えば、俺がお前の右手をそのまま押さえ込んで左の拳をわき腹にきめるのを避けらんないよな?」
「・・・なるほど・・」
「その点、初撃を弾くと相手に隙が出来る。その隙に乗じて一歩踏み込み、技を極め易いだろうが」
「あ・・・そっか」
うんうんと頷きながら燐は、はたと気付く。
「なんだよ・・・」
口元だけだが、ニヤニヤと笑われていることが分かる。
「本当に、お前、何者?」
この男は初めて会った時から、こんな様子だった。
他の刺客とは違う。何故か、燐を鍛えようとしているように思える。いや、鍛えようとしている。
「さて、俺は誰でしょう?」
燐が尋ねると必ず、そう返答される。まるで謎かけだ。
「取り敢えず、これは貰っておくぞ」
ピンクの水玉包みが、男の手にあった。
「はっ・・・いつの間に・・・」
「まだまだだな、卵」
メフィストと同じように揶揄われて、頭に血が上った。
高く跳躍して、相手の上から蹴りこむ。男は避けずに燐を待っている。
何故か厭な予感がした。男はすっと極僅かに後ろへ身をかわし、着地した燐の足を踏み込み、軽く握られた拳で顔面を三度殴られた。
「技が荒い。動作が大きいから隙が出来やすいっていつも言ってるだろう」
『お仕置きするぞ』耳元で囁く。
「ぎゃぁ!!」
燐が叫んだときには、大きく跳躍した男は、追撃を赦さない距離を開けられる。
「ばーか、もっと色っぽい声出せよな」
囁かれた耳を押さえて真っ赤になった燐を笑いながら、楡の木陰に消えていく。
「ば・・・馬鹿はおまえだぁぁぁぁ」
殴られた顔よりも耳の方が熱い気がした。
基本、男の動作は少ない動きで交わし、距離を詰め攻撃する。その攻撃は相手の力をそのまま返すようなものが多く、燐の攻撃を上手く返してその効果を全て力に返還してくる。
逆に言えば、それを同じように燐が相手に返すことを覚えれば、自分の力を使わなくても相手を攻撃することが出来るはずだ。そして、それを教えようとしている。
「・・変な奴なんだよな・・・」
燐は男の消えた木陰に向かって呟いた。

2011/07/07


コメント:
ターイートールがー。もう、面倒になってきたのありあり。
誰得ですか、これ。え?俺得?そりゃ、楽しいけどね。メフィストも初回以来のご登場ですし。出来れば、次こそは雪男の格好いいところが・・・大活躍だと・・言いたい。

[ 46/48 ]

[*prev] [next#]
[top]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -