バトルロイヤル ふたたび

「お題ってなんですか?・・・とウコバクが尋ねてます」
「・・・お前、ウコバクの言葉が分かるのか?」
「はぁ・・・、こう、なんて言うのか、頭に響く声がありますよね」
「そうなんだよ、そっかー、お前、悪魔憑きだもんな」
うんうん。
燐が嬉しそうにしているのはいい。
しかし、何故、その横には白鳥零二がいる?
「燐、そいつは誰ですか?」
飴を頬張っているアマイモンが胡乱な目つきで白鳥を睨んでいる。
「白鳥零二君。我が正十字学園高等部一年普通科の生徒です」
「・・ど・・どうも・・」
無表情に睨まれてビビリながら、ペコリと頭を下げる白鳥。
白鳥を紹介したメフィストも何故か不満げに、燐の椅子に座っている。



そこはいつもの602号室。
メンバーは燐の左右を陣取っているアマイモンと白鳥。
備え付けの勉強机の椅子に雪男、もう一つにメフィスト。ちゃぶ台の上にウコバク。
ちゃぶ台にはウコバクと燐が作ったお菓子が並んでいる。
サクサクのクッキーを頬張りながらアマイモンは燐の右腕にへばりついている。
「アマイモン、あのさー、右手・・痺れてるんだけど・・」
「いやです。離れません」
ぎゅー。燐の控えめな希望は聞き入れられることなく、より一層力を込めて腕にしがみつかれる。
「あー・・・」
「アマイモン、奥村君が痛がっているではありませんか。少し手加減しなさい」
「いやです。そっちの奴がどっか行けば、手を握るだけにします」
子供のように頑迷にアマイモンは燐に張り付いてはなれない。
メフィストは溜息をついた。
「それには私も同意します。白鳥君、何故、君はここに居るんですか?」
「俺に聞かれても・・・、気が付いたら、ここに居ましたから」
白鳥も何故、自分がこんな状況に置かれているのかいまいち把握していない。
「あ、そうか。さっきまでアスタロトだったから・・・か」
「はぁ?」×4。
「それってどうゆうこと、にいさん」
我関せずを決め込もうとしていた雪男が、剣呑な視線を燐に向ける。
「何故、アスタロトが・・・」
メフィストにとっても『腐の王』の名前がこんなところで上がるのは寝耳に水な話だった。
「僕、あいつ、嫌いです」
むすっと呟くアマイモンは、より一層燐の腕にしがみついた。
「あだだだっ」
白鳥という一般人がいるので、祓魔関連の話をしないように心掛けていたというのに、雪男が冷たい笑みを浮かべる。
「つまり、そこにいる白鳥君は悪魔憑きなんだね?兄さん」
「だから、さっきからそう言ってるじゃん、なぁ、白鳥」
「俺に振られても・・・俺自身はよく分かってないし・・・」
ゆらり、立ち上がった雪男の手には手榴弾型の聖水が握られてる。
「悪魔、滅ぶべし」
「ばか、やめろ、ここに居るのはお前以外、全部悪魔だ!!」
銃を乱射しなかっただけ褒めて欲しいなと爽やかな笑うな。
燐が慌てたところで、雪男の手が止まるわけもなく・・・。
ぷしゅー。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ」
悪魔の悲鳴が四重奏・・したりはしなかった。
何故か、のた打ち回っているのは燐だけ。
「奥村君、君ほどの悪魔が聖水ごときでそんなに動揺してどうするんです?火傷ほどのことでしょう?死ぬわけでもあるまいし・・・」
「ちょっと痛いだけですよ。熱湯浴びても死なないのと一緒です、燐」
大悪魔二人はあまり動揺していない。たぶん、痛いけど、末の弟にいいところを見せようとやせ我慢しているようだ。
「・・・あの、なんで、奥村はこんなになってるんですか?」
白鳥もまた、服がびしょ濡れになって不快感を感じているものの、全く痛がっていない。
「こいつ、今、『腐の王』の気配がしません」
アマイモンの言葉に、やっと落ち着いた燐が涙目になりながら訴えた。
「だから、言ったじゃん。さっきまでアスタロトだったって」
「ああ、なるほど」
メフィストはどこから出したのか、薄いピンクの水玉タオルで聖水を拭いながら納得している。彼のシルクハットの中からウコバクが顔を出す。
「ウコバク、お前は、とりあえず厨房に帰りなさい。ここは危険だ」
キュ、キュゥと返事をしてウコバクはさっさと602号室から逃げ出した。
「さて、奥村先生。その聖水ボトルから手を離してくれませんか?恐らく、それで痛い目を見るのは君のお兄さんだけだと思いますが?」
もう一つの聖水ボトルに手をかけたままだった雪男にメフィストは説得を試みる。
いや、自分も痛いんだけど、そんなことを言ったらまた、嬉々として聖水を開けそうな奥村弟に、兄に危害が及ぶことを指摘すれば、しぶしぶと聖水ボトルから手が外される。その聖水の濃度はトリプルC。・・・危なかった・・・。
「そのようですね。と言いますか、なんで毎回、僕達の部屋に集るんですかあなた方は」
「燐がいるから」
きっぱり。アマイモンとメフィストが断言した。
この悪魔どもが・・・。
雪男が心の中で悪態を吐いて拳を握り締めていたとしても、悪魔どもの知ったことではない。
「それにしても、アマイモン。いい加減に奥村君の腕を放せといっているだろう」
「いやです。燐は僕のです」
「誰が、誰の物だって?!」
「あ、雪男が壊れた」
「えっ?!はぁっ?何っ??」
嫉妬に焦れたメフィストの言葉に、アマイモンが喧嘩を売った。
しかし、その売られた喧嘩を買ったのは雪男で、その雪男を『壊れた』と表現したのは既にこの会話に慣れてきた燐。優等生の奥村雪男しか知らない白鳥は一人取り残されてあわあわしている。
「燐が、僕の、ものです」
もう一度喧嘩を売った『地の王』。
「いいだろう。そこまで断言するなら、弟であるこの僕が判断してやる。どちらが兄さんに相応しいか・・・」
「お前に判断してもらうまでもありません。燐は僕のものです」
「アマイモン、それ以上、言わない方が・・・」
「兄さん、まさかとは思うけど、この悪魔と付き合ってるとか言わないよね?!」
「えーっ、付き合ってる・・・わけないじゃ・・・むぐっ」
否定しようとした燐の頬を掴んで自分の方を向かせて、唇を合わせる。
白鳥は自分の目の前で繰り広げられる濃厚なキスシーンに当てられて尻餅をつく。
既にご馳走様な感じです。
「理事長、貴方、弟に一体どういう躾をしてきたんですか?」
「いやはや、私もそのように尋ねられれば、申し訳ないとしか言えませんね」
室内の温度は燐がいるにも拘らず氷点下の様相を呈していた。
「アマイモン、いい加減にしないか」
ちゅく。くったりした燐を抱きかかえながら、勝ち誇った顔で『地の王』が言う。
「いやです。燐は僕のです」
「まだ、言うか」
快感の余韻に浸っている燐の口元をぺろりと舐める。
「殺す・・・」
がたんと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった雪男の目は据わりきっていた。両手にはいつの間にか愛銃が握られている。
一発目、アマイモンを狙った弾道は逸れない。『地の王』は燐から離れざるを得なかった。
「なかなかやりますね、人間の分際で。人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られるんですよ」
「誰の恋路だ。貴様の邪な恋路なぞ海の藻屑にしてやる」
窓から飛び降りるアマイモンを追って窓枠に足をかける雪男。
「奥村先生、ここ、六階です・・・が」
一応忠告してみたが、頭に血が上っている雪男には聞こえなかったようだ。
器用に壁を伝い降りていくのを、身を乗り出して確認したメフィストはうっそりと笑った。
「さて、白鳥君。まだ、ここにいらっしゃいますか?」
腰を抜かしたままの白鳥は力ない笑みを浮かべて、首を左右に振る。
「君がアスタロトだったら、私が殺していたかもしれません」
非常に残念ですが、一般人の君を殺したりはしませんよ。本当に残念そうに言うのを聞きながら、白鳥はすっくと立ち上がって部屋を出て行こうとする。
「それでは失礼します。・・・知っていたんでしょう?先程から私がいたことを」
白鳥は恭しく頭を下げる。それは、白鳥ではなかった。
「若君に無理はさせないでくださいね。メフィスト・フェレス卿」
昏い嗤いを浮かべた『腐の王』は、メフィストの剣呑な視線をものともせずに部屋を出て行った。
「私は本当にお前が嫌いだ」
吐き捨てるように言うと、いそいそと床に伸びている燐の元に近寄る。
「アマイモンにも困ったものだ。奥村君が誰のものかだと?私のものに決まっている」
ぺろり。唇を合わせて、力ない燐の舌を蹂躙する。
既に快感に浸りきっていた燐は、メフィストの腕を掴む。
上半身を抱き起こし、頭を支えて燐の唾液を啜る。
「はっ・・・ぁあんっ」
「はやく、私のところに堕ちてくればいいのに。待ちくたびれてしまいますよ、奥村君」
シャツの上から胸の飾りを摘むとびくびくと燐の身体が跳ねる。
「君がそんな有様だから、奥村先生の心配も減らないのではないですかねぇ・・・」
首筋に舌を這わせながら、耳に息を吹き込むと甘い吐息が洩れる。
「奥村君?君は誰の物、ですか?」
ごすっ。
トレードマークのシルクハットがポロリと落ちた。
後頭部に鈍い痛みが。『何故?!』と思いながらメフィストが振り向くと、そこには霧隠シュラが仁王立ちしていた。
「奥村は奥村自身の物だと思いますが?理事長」
低く抑えた声でシュラが言い放つ。
「霧隠先生・・・なんで、ここに?」
「管理人に呼ばれたんだよ。悪魔どもじゃ締まらないから、〆てきてくれって」
「はぁ・・・」
情けない笑みを浮かべる疲れた顔のおっさんに同情する気のないシュラが、指を鳴らす。
「この場を締めるってより、あんたを絞めた方がいい気がするんだけどにゃ」
「ひっ・・・」
「うちの生徒に何してくれてるんですか?理・事・長?」
「いや、・・その、・・・あ・・はははは」
理事長の胸倉を掴みつつ、シュラがにやりと笑った。
「とりあえず、壱万打ありがとうございます。ほら、理事長も言わないと」
「はいぃぃ」
むにぃっと頬を伸ばされたまま、涙を浮かべるメフィストが。

「壱万打、ありがとうございますぅぅ」

やっぱり、やまなし、おちなし(笑)

2011/06/17

コメント:
壱万打準備アンケートの結果を踏まえ、ちょっとだけメフィスト拠りにしてみました。
ただ、バトロイは仲良し四兄弟風味なので、最後はまぁ、こんな感じになりました。
サイトを祝いたい気持ちは、一杯込めました〜。これからもよろしく。

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