ここは悪魔の通り道 メフィスト

メフィストは不機嫌だった。
「兄上。室温が低いような気がします」
「空調は切っているぞ、エコだからな」
「そうでしょうか?どうも、こう・・・」
アマイモンは棒付き飴を口の中で転がしながら首を傾げる。
「アマイモン、お前、アレの存在に気付いたか?」
抽象的な質問だ。『アレ』が何を指しているのか。
「もしかして、『腐の王』のことですか?」
「やはり知っていたか・・・。何故、報告しなかった」
「しましたよ。虚無界の兄弟達がぶち切れている・・・と」
「それは聞いている。アスタロトが物質界に居ることを知っていたのだろう?何故、報告しなかった」
「いや、それは先程気付きました。むしろ、兄上から教えていただけると思っていたのですが」
ガリガリと飴を噛み砕く。
メフィストは眉を顰めた。
「あれが物質界に来ていると知ったのは先ほどだというのか?」
「はい。そもそも、『腐の王』の方が僕よりも先に物質界に居たんですよ」
「それは分かっていた。しかし、藤本によって祓魔されたはずだ」
「ああ、お気に入りの憑依体に聖刻を刻まれて歯噛みしていましたね。彼」
虚無界の虚空海の最下層まで落とされて、もがきながら這い上がってきたと聞いている。
「破印されたんですよ。その聖刻が」
噛み砕き終わった飴の棒を指で弄びながら、アマイモンが応えた。
「誰に?」
メフィストが諦観でぐったりとしながら訊く。
訊くことが義務とでも言うように。結論の分かっている答えほど、訊くのが疲れるものはない。
「僕らの末の弟、です」
・・・やっぱり。
「アホの仔とは思っていたが、ここまでとは・・・。藤本の努力は一体・・・」
そもそも結界内に何故、中級以上の悪魔が入り込めるんだ。相手は『腐の王』、八候王の一角だぞ。メフィストはアマイモンをちらりと見る。
「僕は何もしていませんよ。大体、『腐の王』を呼び込んで、僕に何の利があるんですか?ただでさえ、兄上の許可がないので、末の弟と遊ぶのも我慢しているのに」
「では、『腐の王』と遊んでくるか?」
「それ、本気で言ってますか?」
八候王同士がじゃれ合ったら、この学園都市の一つや二つは軽く焼け野原になる。
「冗談だ。本気にするな」
「だと思いました」
無表情に残念さを滲ませるアマイモンに、疲労感を感じながらメフィストは溜息をつく。
「アマイモン」
「なんです?兄上」
「アスタロトの動向を探れ。ただし、目立つなよ」
「それ、無理です」
「何故だ?」
「僕は奥村燐に面が割れていますから。それ以外の人間にも」
「気取らせずに入りこめないと?」
「・・・」
メフィストの無理難題にむっとしながら、アマイモンは思いついたように嗤う。
「奥村燐と遊んでもいいと許可をいただければ、出来るだけ目立たないようにしてみます」
「・・・お前。私に交渉を持ちかけるとは、偉くなったものだな」
メフィストもまた、にやりと嗤った。緑の瞳が妖しく輝く。
お気に入りの玩具を横取りされるのは気に入らない。それは兄弟二人の共通の感想だ。
「まあ、いい。いいだろう。ただし、憑依体を含め人間を殺すな。建物を壊すな。奥村燐を揺らすな。今はまだ、彼には『人間』で居てもらわなければ困る」
「出来るだけご要望に沿うよう行動します、兄上」
ふとアマイモンの気配が消えた。
メフィストは目頭を押さえる。
「やれやれ。やんちゃな兄弟を持つと苦労する・・・」

それは紅い月の夜。悪魔達の力の増す夜の出来事。

2011/06/17

コメント:
管理人は結構アスタロトが好きなんです。たぶん。
そして、メフィストは自分のシナリオにない登場人物にはすごーく不満を持つと思います。奥村燐という自分の玩具にちょっかいを出されるのは、不愉快。
そんなところでこれの後って、どうなっていくのかなー。ま、白鳥は燐の舎弟ですしね。

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