蒼い鬼火の噂

「ねぇねぇ、知ってる?これ、友達から聞いたんだけど、友達の知り合いが肝試しであの旧校舎に入って、・・ほら、あのちょっと気味の悪い学生寮の裏手にある古い建物よ。そこで火の玉を見たんですって。午前二時になると旧校舎の四階の北教室の隅に小さな火の玉が現れて、青白い焔をあげながらゆらゆらと揺らめく。それで見た者を果てなく追いかけてくるんだって。怖いよねぇ〜」





「蒼い鬼火の噂?」
昼休み、『奥村屋』にて。
今日も定食が完売したところに、雪男がやってきての言葉だった。
「そう。高等部の学生寮の裏手に旧実験棟があるんだけど、そこの校舎に蒼い光を見たという噂が女生徒を中心に広まってるんだ」
たまたま、定食を食べにきていた京都組三人と女給(ウェイトレスというよりこちらの方がしっくりくるから)のバイトのしえみ、そして、全ての調理器具を洗い終えた燐が調理台を囲んでお茶を楽しんでいる。
「噂やろ?友達の友達て・・都市伝説かいな。そないに騒ぎ立てんでも、この学園には中級以上の悪魔は入ってこれんはずやないんか?」
勝呂が薬缶から麦茶を瀟洒なティーカップに注ぎながら言う。
「そうですやん。小鬼共の悪戯ちゃいますの?」
子猫丸が調度飲み切ったところで、勝呂が薬缶の口を向ける。カップが差し出され、そこにも麦茶が注がれる。
「せやし、蒼いって辺りに引っかかってますのやろ?若先生は」
志摩が『暖かいの下さい』としえみにお願いする。
しえみがティーコジを開けてポットから湯気の立つお茶を注ぐ。
「そうです。悪戯ならばそれでいい。しかし、もし万が一のことがあったら・・・」
雪男はじっと燐を見ていた。
燐は眉を顰める。
「何、兄弟で見つめ合ってますのん?」
ニヤニヤ笑いながら志摩が尋ねる。
「いえ、別に。兄さんに意見はないのか?と思っただけです」
「なんで、俺?」
「疑われてんだよ、お前」
ぱしんと後頭部を丸めたノートで叩かれた燐は、腑に落ちないというように叩かれたところを撫でる。いつの間にか霧隠シュラが立っていた。
「なんで、俺?」
再び首を傾げる。
その様子に雪男は溜息をついた。
「こいつじゃないんじゃないのか?奥村せんせ」
「分かりませんよ、夜な夜な寝ぼけて歩き回っているかもしれません」
「お前は兄貴を夢遊病患者にする気か?」
「分かってますやん、奥村君」
志摩がすかさず燐に突っ込んだ。
お茶を囲んだ候補生と祓魔師に笑いが起こる。



「さて、本題だが、まぁ、日本支部としても捨て置くわけにもいかないが、実情として手が回らないんだよな〜」
にゃはは〜と笑いながらシュラがぶっちゃけて、その後を雪男が引き継ぐ。
「そこで候補生の皆さんに」
清清しい笑みを浮かべる奥村先生に、候補生達は諦念溢れる溜息をついた。
「・・・お鉢が回ってきたいうことですか」
勝呂が頭を掻きながら雪男の言葉を先回りした。
「そういうことです」
「それやったら、塾でも宜しかったのでは?ここには、出雲さんや宝君がおりませんし」
「いや、あいつらには噂の出所を調査してもらっている」
子猫丸の質問にシュラが答えた。
「はぁ・・、それでこちらは旧校舎を調査しろ言わはるんですね?」
「おし、それじゃ、俺達でその火の玉を退治してやろうぜ」
燐はやる気満々だ。そんな彼を見て周囲の一同は溜息をついた。
「なんだよぅ、俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、兄さんが張り切ると碌なことがないというか・・」
「若先生の言う通りや、奥村君、あんまり気張らんとき」
「だから、なんで、俺?」
燐が不満を漏らした。
「分かってるのか?燐。蒼い炎の意味が。相手は魔神に纏わるなにかである可能性があるんだぞ」
シュラがひそと燐の耳に吹き込んだ言葉に、彼の顔色が変わったこと、雪男はそれを見てまた一つ溜息をついた。


2011/06/05

コメント:
しえみちゃんはみんなの話を聞きながらあわあわしてると思う。そして、文章にはそれが出ていなくてすまない。子猫丸も大人しいから会話は勝呂、志摩、雪男、シュラで進むことを許してください。しくしくしく。
燐?燐も会話に加わらず五人の会話を聞くだけ。『考えるのは俺の仕事じゃねぇーし』とか思っているに違いない。

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