六月に何も書いてない(笑)
2013/06/23 23:23

「なぁなぁ、メフィスト」
「なんですか?奥村君」
いつものようにノックもせずに扉を勢いよく開いて入ってきた燐の方を見もせず、メフィストは訊ねた。
「あれ?仕事してんのか?」
「見て分かりませんかね」
「・・・人のコト馬鹿にすんなよな」
「馬鹿にされたくないなら質問の内容は熟考すべきですね」
「うるさい」
やっと顔を上げたメフィストは燐が抱えている大きな箱に興味が湧いた。
「なんです?それは」
幽かな焦がしたカカオの香りを悪魔の嗅覚は見逃さなかった。
「おやつの時間だろ、一緒に食べようと思って」
「今日の調理実習の物でしょうか」
「そう。なんで知ってんの?」
「奥村君の後見人ですよ、私。しかもこの学園の理事長ですから。貴方の授業内容など先生方からの報告ですべてチェックしてます」
「うげぇ〜」
心底嫌そうな顔をする燐に笑ってからペンを置く。
指を鳴らすといつものように薫り高い紅茶のセットがふわふわと空に浮かぶ。
湯気の立つ紅茶がカップに注がれる間に、燐を応接セットに導く。
テーブルの上には箱いっぱいのマドレーヌ。
「マーブルのと、チョコ味のと、プレーンな」
「ほうほうほう。これは美味しそうです」
二人で「いただきます」と声を合わせて、思い思い手に取る。
「あまり甘くないのですね」
一口頬張ってのメフィストの感想に、紅茶を啜っていた燐は小首を傾げる。
「甘すぎたら紅茶の味が死ぬってこの前言ったじゃねぇか」
「あぁ、あの時は私のチョイスミスでした。貴方のせいじゃありません」
「そうだったのか。結構甘いの食べるくせにあんなこというから、今日は・・・・」
話しているうちに燐はメフィストがニヤニヤと笑っているのを見てしまい、声が尻すぼみになっていく。
「ありがとうございます。私のことを心配してくださったのですね。ですが、私は悪魔ですから、虫歯も糖尿病もましてメタボとも無縁です。ご安心下さい」
「だっ、だっ、誰が心配なんかっ」
顔を真っ赤にして立ち上がった燐は、わたわたしながら扉に向かう。
「俺、祓魔塾の時間だからっ。それ、全部お前にやる」
来た時と同じく、扉を閉める音も高らかに嵐のように去っていく末の弟。
メフィストが上機嫌で二つ目のマドレーヌを食しながらティータイムを楽しめたのはほんの五分のことだった。

「あ、兄上。美味しそうな匂いがします」
「ちっ、もう嗅ぎつけてきたか」
トンガリ頭のハムスターから山盛りのマドレーヌを死守できたかどうかは、青焔魔のみが知るとか知らないとか(笑)
おわっとけ。



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