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「なんで俺が留守番なんですかー!!!納得いかないっす!連れてってください!」
「なにが納得いかないだ!ろくにレシーブも出来ない素人連れてけるか!旅費の無駄だ。」
ゴールデンウィークを控えたある日、部活に行くと灰羽君と夜久さんが小競り合い?をしていて聞くと仙台遠征が決まったみたい。でも人数には限りがあるとのことだ。ちょっと遠いけれど烏野高校の先生から熱心に誘われたって嬉しそうに猫又先生が言っていた。
「ま、まぁまぁ灰羽君。一緒にお留守番してよ?」
「いやマナも行くだろ。」
「えぇっあのでも私なんかそんなに役に立たないというか…」
「そんなことないよ。リエーフは役に立たないけどマナは居てくれないと困る!」
留守番組のつもりでしかなかった私に夜久さんがそんな風に言ってくれて。仙台、ちょっと興味あったから嬉しいななんて。ちょっと遠足みたいだよね。隣で落胆してる灰羽君には申し訳ないけど…
「写メたくさん送るね!牛タンとか萩の月とか!」
「マナ…それ俺食べれないやつ…」
「食べ物ばっかだな。しかも写真だけって軽い嫌がらせ入ってるぞ。」
「あっ…ごめん…!」
観光じゃないからなと隣から黒尾さんに念を押され、駄々をこねていた灰羽君は監督の説得によりようやく静かになった。予定を聞いたら毎日練習試合のハードスケジュールで本当に観光なんて言ってられないんだと気持ちが引き締まる。行くからには私も頑張らなきゃ!
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遠征に必要なものをコーチと相談して体育館横の倉庫でガサガサと物品を探す。作戦ボードがこの辺にあるはずって言ってたけどどのへんかな?
一回棚から離れて腕を組んで悩んでいた時ふと棚の上のほうにらしきものがあるのが目に入った。でも場所がかなり上のほう。背の高い私が届かないというのななかなか珍しい。棚に手をかけて奥に入ってしまってるボードに手を伸ばすもあと少しのところで届かない。
「なんか探し物?」
「え、わわっ!夜久さん!」
声がしてよろけながら振り返ると夜久さんが入り口に立っている。手伝うよと中まで来てくれた。
「あれか〜なんでまたあんなとこに…」
「そうなんです…私も取れなかったんで夜久さんも厳しいかも…」
「おいマナ」
思わずなにも考えずに言ってしまって夜久さんの視線ではたと気付く。夜久さんの前で身長の話しは禁句だったと。
「あ、あの決して私と背が同じくらいだからとかそういう訳ではっ!黒尾さんでも厳しいだろうしっ。スイマセン…」
「いいよマナなら別に。てか謝られる方が怒るわ!」
と言いながら大きな手が頭に乗った。みんな背が高すぎるくらいだから夜久さんと話すときはなんだか安心できるな。視線が同じだからかな。
「とりあえずアレ取らないとな〜。あ、脚立あるじゃん。」
「埃かぶってたからちょっと危なくないですか…?」
隅に置いてあった古そうな脚立を見つけて危ないですよという私の言うことは聞かず平気平気と夜久さんは止める間も無く登ってしまう。棚には色々な小物の入ったカゴもあってなんだか怖くてすこしハラハラする。
「はい、これだよな?」
「ありがとうございます!気をつけてくださいね。」
心配をよそにすぐに取ってくれた夜久さんはくるりと振り向いて危なげなく降りて来てくれた。よかったとホッとしたその時、上にあったカゴがぐらりと揺れるのが見えた。
「あっ、夜久さん後ろ!」
とっさに身体が動いてこっちをむ 向いている夜久さんの後ろに回った。
ガタガタガタ…!
そんな大きな音がして頭に何かが当たる衝撃。
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「…マナ!」
「夜久さん…?」
「っ、よかった。どこ痛い?立てる?」
思わず瞑った目をゆっくりあけると目の前に夜久さんのさんの心配そうな顔があった。2人で倒れ込んでしまったんだとズキズキする頭で思い出す。夜久さんに支えられながら起き上がると頭に降ってきたらしいカゴが転がっていた。
「や、夜久さんは!?どこか痛めてないですか!?あ、ああ足とか手とか…!!」
「落ち着いて。俺は大丈夫だから。」
「よ、よかったぁ…怪我したらどうしようかと…」
思わずしがみついてしまった私を離すこともせず背中をさすってくれる夜久さんの手はすごく優しい。そしてぐいと肩をもたれ、
「マナ。」
「は、はい。」
「あぁいうときは庇ったりしなくていいから!女なんだし怪我したら危ないだろ!」
「っ、」
そのままずっと至近距離で怒られてしまった。いつのまにか正座になるほどのその勢いは私が口を挟むまもないくらい。でもびっくりしたけど心配してくれているんだってことは言葉の端々から伝わってきた。
「すみませんでした…で、でも!夜久さんは大事な選手です!なので私が守れるときは守ります!そこはゆ、譲りません!」
自分でも驚くほど大きな声で鼻息荒く言い切ってしまった。でも本当だもの。怪我なんてしてたらマネージャーとして顔向けできないよ。恐る恐る夜久さんを見ると、目を丸くしたあとはぁと大きく息を吐いた。
「なんでそこだけ強気なんだよ…」
「スイマセン、でも!」
「分かった、分かったから。俺も不注意だったしな。こういうこと滅多にないと思うけどマナも気をつけろよ?」
「はいっ」
「大事な選手って言うけどマナだって大事なマネージャーだよ。」
そうして夜久さんは心配かけてごめんなと無意識に硬く握り締めてしまっていた私の手に手を乗せた。柔らかい声と思っていたよりも大きなその手でやっと安心できた私は今さら至近距離なことに気がついたのだった。
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「ったく心配してきてみれば…一瞬夜久のラッキースケベかと思ったわ。」
「怪我なくてよかったよ。でもまぁあの距離はなかなかかもね。2人とも気づいてなさそうだけど。」
「…気づく前に早くマナ保健室連れてくぞ。」
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