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最初は不安しかなったマネージャーの仕事は1年生の灰羽君や犬飼を始めみんな丁寧に教えてくれて大変ながらもとても充実している。今はまだ助けられてばかりだけどみんなを助けられるくらいになるように頑張らなきゃ。
クラスの方はというとマネージャーになってからクラスの女の子に七海さん朝灰羽君と仲いいの!?話しかけられたことがあった。それがきっかけで無事に友達もできて(バレー部に感謝…!)毎日楽しく過ごせている。
そんな日々に少しずつ慣れてきたある日の部活の時間、部室へ向かっていると前の方にプリン頭の孤爪さんが歩いているのが目に入って小走りで隣に並んだ。
「お疲れさまです!部室行きますか?」
「うん。」
孤爪さんは黒尾さんの幼馴染でとても静かな印象。ゲームをしてることも多くて練習がおわるといつの間にかいなくなってることも多い。つまりなかなか仲良くなるきっかけがなくて今みたいに会話がうまくできない、っていうのが実は最近の悩みだったりする。私が緊張してしまうから余計なのかもしれないんだけど…
「一緒に行ってもいいですか?」
「うん。向かうところ同じだし。」
「で、ですよね。」
「「……。」」
そして今、思い出したけど私も人見知りなのでした。先輩たちくらいまで仲良くとまではいかないけどもうちょっと距離が縮まるといいのになぁ。
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「お〜いマナ。ドリンクくれる?」
「あ、黒尾さんすいません!」
「疲れた?あんま無理すんなよ。」
「いえ!そういうわけでは…」
余計なことを考えていたら心配させてしまった。集中しなくちゃ。慌ててドリンクをみんなに配って止まってた手を動かしながらチラリと弧爪さんの方を見ると灰羽君とトスを合わせる練習をしていてすごく難しい顔をしているところだった。
「仲よさそうだなぁ。」
「あの研磨の顔見てそう思えるマナはすごいよ…」
思わず漏れたつぶやきに夜久さんがそんなことを言った。
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今日もあっという間に練習が終わって片付けをしていると体育館の外に孤爪さんが座っていた。ゆっくりと後ろから近づくと孤爪さんの隣には気持ち良さそうに撫でられている仔猫が2匹いるが見える。慣れているのかすっかり気を許している感じでじゃれて遊んでいるみたいだ。生後何カ月っていうくらいの小ささでフワフワしててなんとも可愛い。
「かわいい…」
「っ、びっくりした。」
「あ、驚かせてごめんなさい!すごくかわいいですね。」
「…触る?」
「は、はい!」
促されるまま隣に行ってそぉっと仔猫を撫でようとしたらピクっと耳を立てて距離を取られてしまった。さらに近づいてみると今度は孤爪さんの後ろに隠れて耳を立ててフーっと私に怒っている。近づくほどに同じ距離を取られてしまって。しかも触ってないもう1匹の子も同じ反応をしてる。さっきはあんなに可愛い顔してたのに。
「こ、こわくないよ〜」
そう言ってみるのものの反応は変わらず。しつこいからか噛み付く5秒前といった感じ。悲しくなって出した手をフリーズさせているもプッと声がして隣を見たら弧爪さんが肩を震わせて笑っていた。
「笑わなくても…!」
「ごめん、だってこいつらこんなに怒ることないのにマナが近づくとすごい反応するから。」
マナ、と呼ばれてさらに弧爪さんがこんなに笑っているのって初めて見たからちょっとびっくりした。これは、もしかしてもしかしなくても私が思っていたほど弧爪さんと距離があったわけじゃなかったのかも?勝手に私が勘違いしていただけな気がしてきた今すごく。
「私いつもそうなんです。なぜか動物に嫌われるというか好かれないというか…」
「…。」
「あ、また笑いました!?」
「笑ってない。」
嘘ですよね!?と顔を覗くと思いっきり逸らされてしまったけど緊張が解けたのか私も笑ってしまう。
「弧爪さんが羨ましいです。」
「研磨でいい。」
「え、」
「俺もマナだし、苗字で呼ぶ人ほとんどいないから。」
柔らかな表情を向けられてなんだか嬉しくなり研磨さん!と呼んだら声大きいとたしなめられてしまった。それでもニヤける顔が抑えられずにいたらさすがにちょっと引かれてしまったのだけど。
「研磨!リエーフが探してたぞ。」
「俺のレシーブ練は終わった!」
後ろから黒尾さんと夜久さんが声をかけて、研磨さんは心から嫌そうな顔をして逃げようとしたところに監督に言われてんだろと諭されてものすごくしぶしぶ体育館へ戻っていった。最後に振り返った研磨さんは、
「今度触り方のコツ教える。」
そう言ってくれた。
一方的に勘違いしてただけで研磨さんはずっと優しくて話しやすい人だったことに今さら気づいた私。1人で悩んでなんだか恥ずかしい。マネージャーを始めて思っていたよりもいっぱいいっぱいで周りが見えてなかったのかも。仔猫には嫌われちゃったけど研磨さんが笑ってたからそれでいいのかもって思った1日になった。
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「仲良くなれたのかね。」
「お前過保護なお兄ちゃんみたいだな。」
「夜久だってそうだろ!」
「まぁなんか見かけによらずマナってわかりやすいし不器用ってか抜けてるよな〜」
「確かにパット見クールなできる女感あるわ。」
「ギャップだな。」
「いい意味で。」
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