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「#年下攻め」のBL小説を読む
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▽ わたしのサムシングブルー


いつもお店に来てくれる花がとても似合う男の人。お花を好きな人に悪い人はいないっていうのは花屋の仕事を始める前からずっと思っていて、それは間違いじゃないってことは紬と付き合い始めてから改めて胸を張って言えるようになった。

「季節で何かお勧めの花ははありますか?」
「いらっしゃ、って紬!」

手元に集中してたから声をかけられるまで気づかなかった。声に反応して顔をあげたらいつのまにか目の前にいたのは紬でこの後会う約束はしていたけれどバイトが早く終わったからお店の方に遊びにきてくたらしい。台の上で作業している私のところまでやってくると紬は手元を覗き込んだ。

「ブーケ作ってるんだ?」
「実はね、友達の結婚祝いなの。サムシングブルーって知ってる?」
「それってたしか結婚式の花嫁さんが青いものを身につけると幸せになるっていうやつだよね。」
「さすが紬!」

学生時代からずっと仲のいい友達が今度結婚する。ありがたいことにこの前会った時に式の当日のブーケをお願いされてどんなものにしようかイメージしたときにサムシングブルーという話を思い出した。もともとはサムシングフォーという花嫁さんがしあわせになりますようにと願いを込めたおまじないのなかのひとつ。なにか青いものを結婚式当日に花嫁さんが身につけるとずっと幸せにいられるって。

幸いブーケのカラーはおまかせでと言ってくれたのでどんなものにしようかとちょうど今日あれやこれや試作しているところだった。

「これ、どうかな?シンプルすぎる?」
「そんなことないよ。結婚式だから派手すぎるよりこういうほうがいいんじゃないかな。それにちゃんと花言葉も考えてるんでしょ?」

心がこもっててすごくいいと思うなんて紬に言われると自信がつく。花言葉まで気がつくのなんてマニアックだけれどそういう細かいところまで見てくれるのは紬らしいなと笑顔になった。

「ふふ、よかった。これをベースにもうちょっとアレンジしようかな。」
「できあがりが楽しみだね。このブルースターはあまり?」
「そうなのバランス取るために抜いたやつだよ。」
「綺麗な青だよね。あ、マナにも似合いそう。ほらかわいい。」

紬はそう言ってブルースターの花を取って私の髪に挿した。手を頭に添えながら優しく微笑むその顔にどきりとして頬が緩んでしまう。不意打ちに天然でこういうことをするから狡いんだよなぁ。

「こらそこあんまりイチャイチャしないの〜!仕事仕事!」
「あ、あはは…店長すいません。」
「イチャイチャなんてそんなつもりは…!」

言われた瞬間焦った紬がパッと手を離し、みるみる赤くなっていくからそれにつられて私も顔に熱がこもってしまった。そうして目が合うと赤くなってるお互いをみてどちらともなくプッと吹き出し2人で笑いあった。こういう風に照れて笑う紬の顔が私はすごく好きだったりする。

「じ、じゃあそこの公園で待ってるね。」
「うん!終わったらすぐ行く!」

**

子どもたちの遊ぶ声がする天気のいい公園のベンチで紬は座って待っていてくれた。こちらに気がつくとお疲れさまと目を細める。

「これお土産!さっきのやつ試作品だったから持って帰ってきちゃった。寮に飾ってくれたら嬉しいな。」
「いいの?ありがとう。なんだか結婚式の帰りみたいだね。」

たしかにブーケなんて持っていたらブーケトスを受け取った人みたいかもしれない。女の人の方がブーケは似合うから俺じゃもったいないねといいつつも嬉しそう受け取ってくれた紬。花の匂いを嗅ぐその姿に自分だって十分ブーケ似合うのになぁなんて思った。特にこのブーケの中に入っているスターチスの青と紬の髪の顔、瞳の青がマッチしていてとてもきれいだから。

「何かお礼考えとくよ。」

そう言いながら空いている方の手を私の手にそっと重ねた。お礼なんていいのにと言おうとしたけどハッとひらめいて立ち上がる。

「じゃあブライダルをテーマのストリートアクトみたい!」
「え、ここで?」
「うん!だって紬いつも私の前だとやってくれないから。」
「それはマナ1人の前だと緊張するというか…」

紬は照れ屋だから意外とこういうことをやってくれない。お客さんがたくさんいたりする方がやりやすいって前にごにょごにょ言っていたから無理強いすることはなかったけどやっぱり紬は演劇をしてる時が一番生き生きとしててかっこいいと思う。

「け、けっこう恥ずかしいかなって。」
「ごめんいやならいいの!ちょっとみてみたいなぁと思っただけで。でも、ワンシーンでいいんだけどな…?」
「…。」

うかがうように首をかしげると紬は少し考えたあとコホンと咳払いをしてから目をつむった。次に目を開けた時その表情はついさっきまでとは違って凛としたものに変わっていて思わず息を飲んだ。きっとスイッチが入るってこういうことだ。何をやるんだろうとワクワクして期待の目を向ける。

「スターチスの花言葉のように俺の心は君に囚われたままきっと永遠に変わらない。だからどうかこの花を受け取ってこの先もずっと一緒にいると約束してくれませんか?」

私をまっすぐ見つめブーケを差し出して片膝をついてひざまずいた紬はまるで絵本に出てくる王子さまみたいだと思った。私までその世界に連れ込まれてしまったようなふわふわとした感覚。自分が姫にでもなったんじゃないかと錯覚を起こしそう。そんな風に愛しそうに微笑まれてしまったら…これでキュンとしない女の子がいるなら教えてほしい。

「はい…」

口をついて出てしまった返事。その瞬間ブーケを差し出したまま目を丸くした紬をみてこれはストリートアクトで、私に言ったわけじゃなかったということに気がついて慌てて訂正した。

「さ、遮っちゃってごめん…!つい…だって紬があまりにも、」
「あまりにも?」

かっこよくて本当に私に言ってるみたいだから、と言いたかったけどやめておいた。だって紬が口に手を当てて笑いを必死にこらえているんだもん。

「…紬」
「ご、ごめんマナがすごくいい顔してくれてたから。それだけ本当っぽかったってことでいいのかな?」
「演技とは思えないくらいだったよ。」

少しムッとして言うと紬は隣に座りなおしてもう笑わないから機嫌なおして?と顔をのぞき込む。そんな目で見つめられると弱い。

「俺だって演技とはいえ恥ずかしかったよ。でも相手がマナだから言葉が自然と出てきたんだと思う。」

そう言ってブーケをベンチの隣に置いた紬が優しく笑う。ほらまたそんなことをいうから収まった動悸がまたはじまって鼓動がどんどん早くなる。そして私の顔が暖かい両手で包み込まれ目の前にその浅葱色のような青い瞳がゆっくりと迫ってきた。

「本番はちゃんと俺の言葉で言うから待っててくれる?」
「それって…」

プロポーズってこと?という言葉は紬の柔らかい唇に飲み込まれた。これはきっと紬の照れ隠し。きっとまだ演技と現実のはざまで少し大胆になっているのかもしれない。だから後でものすごい恥ずかしがるんだろうけど今は指摘するのやめておこう。

私にとって幸せを運ぶサムシングブルーは紬のことなんだなって思いながらいつかくる幸せな未来を思い描いた昼下がり。

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