シュガー | ナノ

 茅ヶ崎至

社内恋愛が禁止というわけではないけれど私は最初至の上司だったしなにせ至は王子として女の子たちに大人気なので隠しておこうと2人で決めた。付き合ってしばらくたつけど以外とバレないもので何事もなくしあわせな毎日。大きい会社だし今は部署も別々だからかもしれない。

「それにしても最近忙しそうだな…」

夕飯を作りながらそんな最近会っていない恋人のことを考える。ここ最近は至のところは忙しさを極めていて毎日終電帰りになっているみたいだった。ここ2、3週間はLIMEだけのやりとしかしていなくて、しかも今から帰る、とか簡潔な連絡がくるだけだからさみしいというよりさすがに心配になってしまう。隠していることもあって必要以上に他の社員に現状を聞けないのがこういうときは少しもどかしい。

ピンポーン

呼び鈴の音がなってこんな時間に一体誰だろうとインターホンを取るとぐったりとした至が画面の向こうにいた。

「おつー。やっと解放された。マナ開けて。」
「お、お疲れさま!」

ロックを解除してしばらくすると玄関から突然来てごめんと青い顔をした至がやってくる。

「まじで疲れた…もうむり…」
「ちょ、至!?」
「ごめ、少しこのまま。」

ソファの前で食器を並べてた私の所まで歩いてくるとタックルかっていうくらいの勢いで私の腰に抱きついてきた至。急だったから立膝をついてお皿を持っていた手を万歳するような形で上にあげた。落としちゃうところだったと怒ろうと思ったけどきっと寮のみんなとも会えなくて息抜きできるところかなかったんだなと思って腕だけを動かしてお皿を机に置いた私は至の頭をそっと撫でた。

「大変だった?」
「地獄のような忙しさだった…なにあれ部長はなんか俺に恨みでもあるの。」
「そっかお疲れさま。がんばったねぇ。」

よしよしと至の柔らかい髪を撫でる。相変わらずオンオフが激しいけど今回ばかりは1人でがんばっていたから甘えさせてあげようかな。

「マナに会えてやっと息できた気がする。」
「よかった。私もちょっと安心したよ。今日はゆっくり寝てね?」
「そうする。」
「うん。…あの、そろそろ離れようか?」
「やだ。」

しがみついて離れない至に苦笑いをしてワガママ言わないの!なんてお母さんみたいな台詞を言いながら引っぺがそうとするんだけどこれがなかなか離れない。私の立ち膝もそろそろ疲れてきたしご飯も食べたいと訴えると顔を上げた至が何か言いたそうな瞳を向けてくる。

甘え上手なところはやっぱり弟気質だろうか。この顔をされてお願いを拒否できた記憶はほとんどない。いやな予感と思いつつもだいたい私が負けてしまうのだ。

「寝る前に久しぶりのマナをもうちょっと堪能させて。」
「え…」

返事をする前にそのまま後ろに倒される。上から見下ろされ、そのまま腰にあった至の手は私の頬をなぞっていく。彼があまりに愛しそうに柔らかく微笑んで、その誘うような顔に声が出なくなった私は思わず目をそらした。

「だーめ。もっと顔見せて。」

ぐいと顔を至の方に向けられればそのまま熱い熱が唇に落ちてくる。

「っ、マナ手どけて。」
「む、り…電気とかっ」
「ごめん待てない。」

いつもり性急なキスに息もままならず胸を押し返せばすぐにその手は絡みとられ頭が痺れていく。至の甘い声が頭に響いて先にお風呂に入りたいだとかせめてベットに行きたいだとか、そういう言葉がすべて飲み込まれていって。もうどうにでもなってしまえと至の背中に手を回した。

「今日は手加減できないかも。」

そんな言葉が久しぶりの2人の夜の時間のはじまり。