May I eat you ?



(※高校生と大学生)



面倒なことに日付が変わると同時に眠気は襲い来る。
時計の秒針が二、三周ほどすれば、意識は深い水底へと沈むかの様に眠りへと誘われてしまう。
抗うことをしないのは、所詮は無駄な抵抗だと知っているからだ。
三大欲求の一つを充たして、目が覚めると感じるふたり分の温もりが当たり前になったのはいつからだったろうか。
狭いベッドの上におとこがふたり。
身を起こせばベッドが悲鳴をあげて軋む。
その音が妙に虚しく響いて、覚醒し切れない思考を叱咤した。
アラームを仕込まずとも一定の時間に目が覚めてしまうのは、平日なら兎も角、休日には要らぬ癖だと思う。
特に今日の様に特別用事がない日には腹立たしくなることも屡々で、その要因は休日位は一度も目覚めることなく、ゆっくりと昼まで惰眠を貪りたいと言う些細な欲求を充たせないからと言うより、「休日位ゆっくりしたらどうなんですか。これだから年寄りは嫌ですね、朝が早くって」と、そう歳も違わない後輩に皮肉られた過去を思い出すからだ。
良く口が回る嫌味な「後輩」の言葉が、その時の憎たらしい笑顔付きでフラッシュバックする。
隣で心地好さげに眠るおとこが、その「後輩」なのだから、腹立たしさにも拍車がかかると言うものだ。
普段の仕返しと言わんばかりに額を小突いたり、頬を摘んでやるが、微かに唸りをあげるだけで一向に起きる気配はない。
規則正しい寝息に重ねて長い溜め息を吐き出す。
すっかり意識が覚醒するのと同時に朝の冷たい空気が肌を粟立たせ、ぶるりと背筋が震えた。
暦の上では春が訪れたが、冬は別れを惜しむ様に未だ春に寄り添った儘だ。
桜の開花も遅れ、春の気配はぼやけて掴み切れない。
窓の外はまだ白み始めたばかりに加え、布団が孕んだ温もりの誘惑に抗う理由もなく、シングルの狭い隙間に再び潜り込んだ。
おとこと向かい合う形で身を沈めると、今更ながらにいつもはふたりの視線を遮るレンズが存在しないことに気が付く。
ふたり分の温もりが当たり前に感じる様になったと言うのに、直に見詰める瞼やそれを縁取る睫毛を新鮮に感じる。
そろりと顔を寄せて、そこで初めて睫毛が髪と同じ色をしていることを知った。
きっと、日に透かせば綺麗に違いない。
ふわふわと触り心地が好い髪同様、太陽の光を受けてきらきらと輝く様を思い描き、思わず頬が緩んだ。
知らず知らず伸ばした指先で輪郭をなぞると、ん、とくぐもった声が耳朶を擽る。
煌めく睫毛がふるりと震えて、うっすらと眼前の瞼が開いた。
寝ぼけ眼に映った自分にぴしりと動きが止まる。
「…はよ、ござ…ます」
「………ああ、お、おはよう?」
別に疚しいことなどない。
どちらかと言えば、ひとのベッドに潜り込んて寝ているおとこに文句の一つも言いたいところだ。
だと言うのに、先程まで穏やかだった笑顔が引きつる。
「いま、なんじっすか」
「ま、まだ朝早いから寝てて良いぞっ」
俺はもう起きるから、と這い出そうとした身体は、ぐいっと腕を掴まれてベッドの中に引きずり込まれた。
「っ、ばっ、なにを…っ」
ぎゅうぎゅうと腕の中に捕らわれて、その苦しさから逃れる為に腕でおとこの身体を突っぱねる。
おとこと自分の顔との幾分もない距離が居たたまれず、必死に顔を背けたのも虚しく、耳に走った痛みに情けない悲鳴があがった。
「い…っ」
かぷりかぷり、時折、がぶり。
まさか噛み切るつもりじゃないだろうな、と疑ってしまう程の痛みに肩が跳ねる。
「っ、や…めんかっ」
「んー、じゃあ、もうちょっといっしょにねましょ」
やめたげますから、と上からのもの言いが気に食わず、ぶんぶんと乱暴に頭を振ってどうにか痛みから逃れた。
服の上から爪を立てて、鋭い視線をおとこ向ける。
すると、夢の中に片足を突っ込んだ儘だからか、普段より少しばかり幼い顔でおとこは笑った。

( そ ん な か わ い い か お し て た ら た べ ち ゃ い ま す よ ? )




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -