夜空を見上げる彼女の姿は、まるで美しい絵画の様だ、と思う。
彼女の長い髪は、夜の闇を取り込んで艶やかに揺れる。
冷たい宵の風が体温を徐々に奪い、やがては彼女の存在そのものを攫ってしまう様な錯覚に陥った。
普通でありたい、と言う彼女の願いは、何処か呪縛にも似て、知らず知らずの内に運命の歯車を廻し続けている。
僅かな軋みを立てながら、順調に。
軋みは彼女の胸の痛みを表し、運命に囚われた哀れな姫君は自らの特性を閉じ込める。
夜の闇で全てを隠し、無法者達に微笑み掛ける女神の顔を。
頑ななその瞳が映す夜空に浮かぶ星々が、彼女の悲しみを少しでも癒せる様に、と歌う。
(いや、そうであれば良いって俺が勝手に思ってるだけか)
実際、この世界で彼女を癒せるものの数なんて、ほんの僅かしかないんだろう。
女神の力を自ら封じ、その誓約から普通を手にしようとするのに、彼女はこの国を愛おしむ心を捨てられない。
犯罪による収益で成り立つ、普通とは懸け離れたこの国が、彼女は愛しくて仕方がないのだ。
「俺で良かったらいつでも優しく抱き締めてやるぜ、プリンセス」
「私はギルカタールの王女よ?そんな生半可なもの、要らないわ」
闇を溶かした青い瞳がこちらを見据える。
彼女の瞳に映る己が笑った。
「そっかそっか、プリンセスは強いな〜。けど、ほんと、呼んでくれればいつだって駆け付けるからさ」
寂しい時には呼んでよ、なんて戯れ言みたいに。
「………嘘吐き」
「え〜、プリンセスってばひっでー。本気だぜ?」
「例え本当に駆け付けてくれるんだとしても、あんたなんて呼ばないわよ」
つん、とそっぽを向く仕草は可愛らしいのに、その瞳が宿したものが心臓に不快な痛みを走らせた。
「プリンセ…」
「もう遅いわ。お休みなさい、マイセン」
「………ああ、お休み。良い夢を、プリンセス」





【彼女がそう望むから、涙は見ない振りをするべきだ】



(私を見ていない貴方を呼ぶ程、私は愚かではないのよ)
(でも、それでも、こんなにも貴方が好きなんて、やっぱり私は愚かなのね)


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