青いエプロンドレスに身を包んだ少女は栗色の髪を草原に散らして、その碧眼を細めた。
彼女に覆い被さる影の肩越しに見える空の青が眩しく、草原に彼女の手首を縫い止める影も酷く視覚に対して暴力的な色をしているからだ。
影の正体はとピンク色の尻尾を揺らめかせ、喉を鳴らして笑った。
三日月が少女の眼前で象られる。

「お嬢さん、俺と一緒に昼寝しない?」
「おチビさん、私は本の続きが読みたいんだけど?」

草原に押し倒された際に少女の手元から溢れ落ちた本のページが風にめくられる。
猫は少女に覆い被さった儘、彼女の関心を引く分厚い本を一瞥し、不服そうな面持ちで再び碧眼に視線を落とした。

「おチビさんはやめてよ、アリス。確かに俺はブラッドさんより背は低いけど、あんたよかは高いんだぜ?」
「あら、ごめんなさい。我慢が利かない子供みたいな事をするから、ついつい口が滑ったわ」
「それって俺が子供みたいだから“おチビさん”って訳?」
「さぁ、そうかも知れないし、そうじゃないかも知れないわ」

少女の口許が少し悪戯な笑みを象る。
それは謎掛けをしている時の猫のものと似ていた。

「アリス、俺は答えをはぐらかすのは好きだけど、はぐらかされるのは好きじゃないよ。ま、そんなあんたも可愛いけどね」
「…よくそんな恥ずかしい事が平然と言えるわね」
「えー、恥ずかしくなんかないって。ほんとあんたって凄く可愛い」
「判ったわ。判ったからやめて頂戴」

少女の頬が仄かに赤く染まり、碧眼が逸らされる。
しかし、頬を撫でたざらついた感触に少女は驚いて視線を猫へと戻した。

「ちょっ…ボリス!」
「ん、なあに?アリス」
「なあにじゃないわっ。やめ…っ」

少女は咎める声を上げたが、猫は舌先を頬から首筋へ滑らせる。

「ボ…リスっ」
「ね、アリス。俺と一緒に昼寝しようよ。そしたらやめてあげる」

甘く意地の悪い笑みを前にして、少女は頷く他なかった。





【君と日溜まりの中で】



(あんたの匂いに包まれてると酷く安心するんだ)


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