(はらりはらり、と雪が降る)

窓に這わせた手の体温が奪われて行く感覚が何故か愛しくて、外界の温度に触れて冷たい窓は溢れた吐息で白く曇る。
音も無く世界を染める白に魅せられて、愛しさと痛みとが混ざり合った感情を噛み締める。
美しい白い花。
しかし世界は其れを畏れ忌み嫌う。
世界を滅亡へと誘う不吉の象徴。

(「こんなに綺麗なのに、な」)

自嘲気味の笑みは無意識に溢れ、心の中で外へと吐き出せない感情が小さく燻る。
幼い頃に突き付けられた現実は余りに自然に内側へと溶け込み、今まで感じて居た不可思議な感情の意味を納得させた。

(雪を見る度に感じた罪悪)
(言葉で表す事の出来ない不安)
(悲しくも無いのに溢れた涙)

怪我をしても直ぐに塞がる傷口。
癒える傷とは裏腹に心が抉られて行く感覚に上手く呼吸が出来なかった。
内に籠る熱に込み上げる吐き気と頭痛。
痛みが在る事だけが救いで、何度も其の痛みに縋ろうとする弱さを戒めた。

(世界は余りに残酷だ)

愛して欲しいから愛した訳じゃない。
其れでも、此れは余りに酷な仕打ちじゃないだろうか。

(「自ら命を絶つ事も出来ないなんて」)

傷口から流れる赤に安堵を覚えて、其の温もりに目眩がした。
そして同時に苦しくも在った。
もし此れが人の其れとは異なる色をして居たら、否いっそ流れる事も無かったら、此の世界を愛する事も無かったのでは無いだろうか、と。





(ああ、ばかなはなしだ)



窓の外は白銀。
溜め息が溢れる程に美しい世界。

(きれいな、とてもきれいなせかい)

世界がどんなに残酷でも、奥底から溢れる感情に嘘偽りは無い。
窓に這わせた指が、其処から見える白銀の世界を愛でる。
愛しさを惜しみ無く込めて。

「結局、愛してるんじゃないか」





【愛しい世界に口付けを】



(此の想いは決して叶う事は無い)


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