髪紐


くいっと引かれた後ろ髪。勢い良くと言う訳ではなかったが、後ろに傾いた身体。視界に空の青、次に太陽の黄色、最終的には燃える様な赤。ぽすっと後頭部が悪戯の犯人の胸元にぶつかり、脇の下を腕に掬われた。不安定な体勢で犯人を睨み付ける。
「何、するん、ですか」
声を荒げずに区切り区切りの抗議を相手に投げた。癖のある赤い髪が風に靡き、金の瞳に不機嫌な自分の顔が映り込む。
「朝から見掛けるには珍しい面だったから」
ついな、と彼はからかう様な口振りで笑った。何て腹立たしい笑顔なんだろう、と思う。
「それは私の台詞です。いつも遅刻してばかりの貴方をこんな時間にお見掛けするなんて、明日にでも世界が滅びるんじゃありませんか?」
足に力を込め、傾いた身体を立て直す。間合いを取る事で彼の腕を振り払い、乱れた髪を直そうと束ねた髪に手を伸ばした。指先で髪紐を引き、三つ編みを解く。
「あ、俺がやってやる」
「は?嫌ですよ」
「嫌ってお前な、もうちっとオブラートに包んだもの言い出来ないのかよ」
「嫌なものは嫌なんです。どうして私が貴方に気を使わなきゃいけないんですか」
髪紐に伸ばされた手を軽くかわし、手櫛で髪型を整えるとその儘一つに束ねた。
「三つ編みしないのか?」
「面倒なので」
「だから、俺がやってやるって」
「結構です。基はと言えば貴方が引っ張ったりしなければ結び直す事もなかったんですよ?」
判ってるんですか、と続ける筈だった言葉は、徐に伸ばされた手のひらに飲み込む他なくなった。彼の手のひらが頬を撫で、流れる様に後頭部へと移動する。しゅるり。後頭部から響いたその音に一瞬の空白が生まれた。
「だから、責任取って結び直してやるって言ってるんですよ、王ドラさん?」
彼は口端を吊り上げて、指先で攫った髪紐に軽く口付けた。

(っ、何するんですかこの馬鹿牛があっ!!!)



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