キミの涙に溺れたい


夜は明けない儘閉ざされて、彼は今も膝を抱えて孤独に耐えている。ボクの手のひらが肩に触れると、彼はまるで今までボクの存在に気付いていなかったかの様に身体を震わせた。俯いていた顔を上げ、彼の唇がボクの名を象る。驚きと戸惑いに揺れる瞳に笑い掛けた。へらりと締まりのない顔が彼の双眸に映り込み、今この瞬間だけは彼はボクのものになる(思い込み、かも知れないけど気にしない)。記憶は指の隙間から止め処なく零れ落ち、ボクを置いてけぼりにするけれど、ボクはそれすら忘れてしまう。だから、彼の痛みも苦しみもボクには理解出来ない。きっと、この先もずっと。
「あんまり泣くと目が溶けちゃうよー」
頬に触れると彼は微かに目を見張って、僅かな空白の後、笑った。
「溶けるんだ?」
「うん、溶けるんだよ」
「僕、泣いてないけど?」
「そうだね。けど、泣いてる気がしたから」
泣いてしまえば良いのに、とは口にしない。泣き崩れて、全てを曝け出してしまえば良い、なんて。ボクの前でなら泣いても大丈夫(ボクなら忘れてしまうから)、なんて。
「泣かないよ」
酷く優しい声だった。きっと、彼が子供をあやす時の声だ。彼に自覚があるかは判らないけれど。
「大丈夫、僕は泣かないよ」
彼の手のひらがボクの頭を撫でる。その感覚に瞼を下ろした。

(泣いて欲しい、なんて言えない)



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