ワン・オラクル


彼の指先は時折空を掴む。それは恐らく髪が長かった頃の名残なのだろう。彼は髪を指先に絡ませるのが癖だった。月を模した髪は今は深海を思わせ、水が不得手な自分には縁遠く感じる。レンズ越しの眼差しは夜を模した儘だが、更なる闇を招いてしまった様だった。根深く内に巣くっては彼を歪める。闇に蝕まれる畏怖を抱きながら、今宵も彼は孤独に堕ちるのだろうか。
「蝕むものが呪いの類ならば助力出来るものを」
「呪い?また随分と物騒だね」
溜め息混じりの呟きに一体何の話だと彼は小首を傾げた。前髪がはらりと頬を撫でる。
「お主は呪いを信じるか」
「信じるとか信じないとか余り考えた事ないな。メッドの占いは良く当たるとは思うけど」
タロットをもの珍しげに手に取り、一枚一枚意味を尋ねて来る様はまるで幼子の様だ。知識を欲し、吸収して、彼は何を見出すのか興味があった。
「呪いもまた占いの様なもの。身を委ね過ぎては滅びを招く」
糸を引く様に指先を曲げれば、彼の手元に収まっていたタロットが舞う。22の絵札を宙でシャッフルし、まるで意志を持つかの様に卓上でカットをした。
「この22のカードは大アルカナと呼ばれ、タロットの核心とされている。このカードはなすべき事を示す」
カットした山の一番上のカードを指先で撫でる。
「しかし、それはヒントに過ぎない。占いとは答えではなく、それに辿り着く為の謂わば道標。最終的に答えを見出すのは自らである事を忘れてはならない。でなければ何も得られず、待つのは堕落のみ」
それは滅びの序章だと口にすると、彼は双眸を細めて微笑んだ。
「そう言う考え方好きだよ。メッドのそう言うところを僕は尊敬する」
指先に願いを込める。ゆっくりと捲ったカードの示す未来が、彼に幸多きものである様にと。

(幸せな結末に辿り着く為の一枚のお告げ)


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