貴方に忘れられたくない僕がいる(鼠+黄)


「溶けて消えてしまえるなら、それはそれで素敵な事だと思うんだ。誰の記憶にも残らずに消えてしまえたら、この世界に未練で繋がれる事なんてきっとない。僕がいなくなっても誰も泣かずに済むのなら、それこそが僕の幸せなんだよ。…ああ、変な事言ってごめん。何か貴方相手だと口が軽くなって困るなぁ。僕はどっちかって言うと聞き出すのが得意なんだけど。うーん、貴方があんまり喋らないからなのかもね。僕ね、貴方の横は心地好いから好きだよ」
はらり、と月の光を切り取った髪が揺れる。存在さえもが月の光の様に透けてしまう身体は、いつ消えてしまっても可笑しくはない。閉ざされた瞼の奥の夜を模した双眸が、遠くを見ているのだと知ったのはいつの事だっただろう。触れ合っていても不確かな距離が温もりの儚さを教えた。時が移ろう速度に思考が追い付かない儘、明日もこうして触れ合えるとは限らない現実に怯えている。
「でも、やっぱり困るなぁ」
いつもと変わらない笑顔の筈なのに、悲しく揺れて映ったのは何故だろう。

(離れ難いなんて馬鹿みたいだね)



幾つになっても(N+RAMI)


昼間にも月は存在し、太陽の光を受けて煌めく。彼女の月を模した髪が風に揺れる。それにちらつく彼女の兄の過去の面影。ふたりは一目見れば直ぐに兄妹と認識する事が出来た。顔はそれ程似ていない。しかし、髪の色がふたりを繋いでいた。今ではもう過去の話だが。
「お兄ちゃんは私に対して少し過保護だと思うんです。私、そんなに頼りなく見えますか?」
そんな事ないよ、と苦笑しつつ返す。少し、と言う部分に引っ掛かりを感じるが、確かに彼は過保護だ。彼女がしっかりしているのは事実で、彼が彼女に対して過保護なのは頼りないと言う理由ではないだろう。唯、彼はたったひとりの妹が可愛くて仕方ないだけだ。
「私、もう子供じゃないのに」
手のひらでスカートに皺を寄せる様は彼女を幼くしたけれど、目の前にいる女の子は確かに自分の事は自分で決められるだけの判断力を備えた女性だった。

(けど、子供じゃないから心配な事もあるよね)



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