心が蕩ける様だ




幾度目かの愛してる、と共に口付けは降って来た。
唇に感じた柔らかな感触が、まるで永遠を思わせた。
見開いた双眸で捉えたのは、レンズ越しの閉ざされた瞼。
呑気に意外と睫が長いんだな、なんて思っている場合じゃない事に気付いた頃には、合わさった唇は離れ、薄く開かれた瞼から覗く双眸に自分が映っていた。
おとこは口端を吊り上げ、白衣の袖から伸びる不健康な肌色をした手のひらで左頬を撫でる。
自分より幾分か低い体温の動きが不埒に思えて、顔に熱を集めた。
粟立つ肌に背筋が震える。
絡まった視線をそのままに身動きひとつ出来ない。
乾いて痛みを訴える喉を宥める様に、無理矢理唾を飲み込む。
その音は妙に響き、耳に痛い程だった。

「せんぱい、顔、真っ赤」
「…っ」

喉を鳴らして笑うおとこが憎たらしい。
誰のせいだ、と怒鳴りつけてしまいたかったが、唇を噛み締めてやり過ごす。
ここで我を忘れれば、それこそ相手の思う壷だ。
神経を逆撫でするのが得意なおとこは、嫌味な程に口が回る。
言い合いで勝てる気は、はっきり言って余りしない。
せめてもの抵抗にきつく睨み付けると、おとこは珍しく眉根を下げて笑って見せた。

「煽ってんですか?」
「なっ…」
「だって、アンタ可愛い」
「た、戯け!」
「かーわい」

擽る様な笑いを溢しながら、おとこの指先がまるで硝子細工でも扱う様に顔の傷痕に触れる。
硝子細工を扱う、なんて思い上がりに過ぎないのかも知れない。
それでも、おとこの指先がそう勘違いしても仕方ない程に優しくて、心臓が鷲掴みにされたかの様に軋んだ。
悪戯に指先が傷痕から唇へと滑ると、おとこの唇の感触が鮮明に甦る。
脳がじわり、と痺れた。

「また、したくなる」
「っ、やめっ…それ以上顔を寄せる、なっ」
「や、無理だろー」

唇を撫でる指先で顎を掬われ、もう片方の手が後頭部に添えられる。
両手で肩を押し返すが、つつつ、と項を撫で上げられ、一瞬だけ力が抜けた。
そこをおとこは見逃さない。

「せんぱい、愛してる」

自分だけに向けられる、甘い甘い笑み。
くらくら、とした眩暈。
唇に噛み付かれ、全てを食らわれる様な感覚へと堕ちる。
噎せ返る様な甘さに呼吸の仕方を忘れた。





【唇で伝える愛の形】



リクエスト頂いた方に愛を込めて!



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