僕は愛で君を切り裂く




「どうして僕等はあの頃の儘でいられなかったんだろうね」

こんな物言いをする権利を持っていたのは、きっと彼の方だった。
僕がそう口にする事で、彼が悲しげに顔を歪めるのは容易に想像が出来たし、あの頃の儘でいられなかった原因は僕にある。
微かに揺らいだ双眸と噛み締められた下唇が、僕が彼を無理矢理今の現状に引き込んでしまった事を再確認させた。
幼い頃の僕等の関係は心地好いものだったのだと思う。
少なくとも彼に取っては。
そんな関係を覆してしまいたいと願ったのは僕で、彼をそこから引き擦り落としたのも僕だ。
彼の事が誰よりも愛しいのに、結局は自らの為に彼を傷付けてしまった。
(僕等はもうあの頃には戻れない)
愛してる、と囁いた所で君の胸を抉るだけと知らない訳ではないけれど、幼い儘では君に触れる事すら出来なかった。
どんなに必死で伸ばしても彼には届かずに空を描いた幼い手のひらを思い起こせば、彼と触れ合える今が堪らなく愛しい。
心臓が潰れてしまいそうな程の愛しさに溢れた涙を君の指先が一粒一粒拭い去り、まるで子供を宥める様に背中を軽く叩く。
ぽんぽん、と与えられる心地好いリズムに身を任せて、自分より幾分か高い体温を貪った。

「愛してるよ、愛してる」
「ああ、判っているから泣くな」
「ん、ごめん、ごめんね」

彼の優しさが痛くて、僕の涙は止まらない。





【君は優しさで胸を抉る】



(いっそ拒んでくれたなら)



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