寒さすら忘れてしまう程に




頬を撫でた手のひらを心地好く感じたのは、冷たい外気に体温が奪われたからだろうか。
自分より幾分か低い体温をもっと感じていたくて、添えられた手のひらに自ら頬を擦り寄せた。
吐き出した吐息が白く染まる様が移り変わった季節を教える。
寒さに音を鳴らした奥歯を噛み締め、ゆっくりと瞼を下ろすと、瞼に柔らかいものが触れた。
その感触に瞼を開けば、おとこが口元を歪めて笑う。

「アンタは俺に対して無防備過ぎる」
「そうか?」
「ああ」

薬品の匂いが染み付いた指先が顔に走る傷痕を撫で、そこにも柔らかいものが触れた。

「で、それを嬉しいと感じてる自分が無性に腹立たしいんすよ」

おとこの拗ねた様な口振りが可笑しくて、思わず緩んだ口元を咎める様に、柔らかいものが唇に触れた。
愛してる、なんて柄にもないだろう言葉を降らせながら。





【キスして】



(唇が触れる度に君への想いが加速する)



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