■触れ合う部分から伝わる、君の優しさ

どんなに血に塗れても変わらないものが在ると信じていた。

薄い膜の向こう側がぼやけて、その鮮明な色さえもが霞んでしまう。
色んな感情が入り混じり、目の奥に熱が溜まって行く。
じわじわ、と熱に浸食される感覚に息が詰まる。
呼吸すらも儘ならず、縋る様に彼に手を伸ばした。
皮膚と皮膚が触れ合い、握り返される温もり。
愛しくて、悲しくて、ついに涙が頬を伝った。
変わって行く事が怖いんだよ。
途切れ途切れにそう告げれば、指先に力が込められた。



■僕の正気を繋ぐ君と言う存在2

※この話はメインに掲載している「僕の正気を繋ぐ君と言う存在」の続きです。



白は恐怖を呼ぶ色だ、と思った。室内は床も天井も壁も染み一つない白で構成されていた。中央に置かれたベッドの上で白いシーツに身を包んだ赤。
その室内で彼だけが異色だった。

「久し振りだね。元気にしてた?」

掛ける言葉が見つからなくて、そんな在り来たりな言葉を口にする。彼は頷いた様な首を傾げた様な仕草を返した。彼らしくない曖昧さが胸をざわつかせる。定まらない視線がもどかしい。

「何処を見ているの」

そう尋ねると心持ち視線がこちらに向けられ、唇がゆっくりと笑みを象る。

「別に何処も」

ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。低音が紡いだ言葉は普段の彼からは想像し難い程艶やかで、何処か幼さが滲んでいた。身を包むシーツを手繰り寄せ、再び彷徨い始めた視線をどうにか留めようと、出来る限り優しく彼の名を呼ぶ。すると、微かに彼の身体が震えた。もう一度彼の名を呼ぶ。
ギロロ君。

「や、」
「ギロロ君?どうし…」
「呼ぶな!」
「……っ?」

突然荒げられた声が室内に響く。彼の顔が悲痛に歪む。そして、僕は見てしまった。彼の瞳の奥にそれは息づいていた。溢れ落ちる滴がその色に染まる。

「呼ば、ない…で」

彼は震える身体を自らの腕に抱いた。頭を振る姿は泣きじゃくる子供の様で、僕はそれを唯見詰めていた。見詰めるしか出来なかった。彼に触れれば、きっと壊れてしまう。僕はそれが怖くて動けない。呼吸も上手く出来ない。怖い、彼が壊れてしまうのが怖い。
僕は知っている。
彼を蝕むものが何かを。

「俺…を呼ばない、で」

僕はそれを“絶望”だと知っている。

【崩壊の足音を聴いた】

(僕はどうすれば君を救えるんだろう)



■それだけじゃ足りない

どうしてこの手は君に届かないんだろう。幼い頃からずっと僕の手は君に届かない。何も変わらない。何も変われていない。もどかしい。不甲斐ない。
(悔しいな、)
「ギロロ君」

(名前を呼べば、君は振り返ってくれるけど)



■存在証明

僕の中に渦巻く欲望は果てしない。
抱き締めるだけでは足らなくなる。
それを理解していたからこそ、僕は君に触れる事を躊躇わずにはいられなかった。
「けど、我慢出来なかった。僕の理性は案外脆かったみたい」
ごめんね、と呟けば君は少し困った様に笑った。
僕の狡さの現れでしかない謝罪ですら、君は容易に受け止めてしまう。
幼い頃から焦がれていた温もりに生きている実感を求めた僕は、何処まで浅ましいんだろうか。
「好きでごめんね。愛してしまってごめん。止められなくて、」
ごめんなさい、と両手で頬を包み込んだ。
罪深い指先を這わせる度に生まれる熱だけが、僕に生きている事を実感させてくれる。

(君を僕だけのものに出来たら良いのに)



■お悩み相談

「君を殺したいなんて微塵も思わない。僕は生きている君が好きだから。けど、君がもし死んでしまっても、僕はきっと君が好きだよ。本当はね、君に僕と云う存在を深く刻みたいんだ。でも、傷痕が残るのは嫌だし。ねぇ、どうしたら良いと思う?」

(空を模した瞳は余りに真剣だった)



■あまいあまい

君が僕の名前を呼んでくれるだけで、僕の心は満たされる。
「あたたかくて、めまいがするんだ」
赤い髪を指先で梳いて、薄く開かれた唇に自らのそれを重ねた。
くらくら、する。
愛しくて愛しくて、泣きたくなる。
「だいすき、あいしてるよ」

(君は僕の唯一のひと)



■冷たい指先

握った指先の冷たさに込み上げたのは笑いで、彼の高い体温は何処へ行ってしまったのだろうかと考えた。
冷たい、と彼に告げるでもなく呟く。
彼の両手を自分の両手で包むと、口元へと引き寄せて、はぁ、と息を吹きかけた。
吐き出した吐息が白く染まり、やがて風に攫われて消える。
指先に口付ければ、彼の肩が小さく揺れた。
「帰ろうか」
「…ああ」

(手は繋いだ儘、ポケットへ)



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