答えは YES と男は言った




鮮やかに散った赤は罪を彩り、深く脳裏に刻まれる。
痛みにも似た、それは後悔と言う名の弱さか。
奪った命の重さは戦場と言えど軽くなる筈は無いのに。
液状の赤はやがて大地に黒く蔓延る。
重く感じた引き金も今では酷く軽い。

噛み締めた唇から鉄の味がした。



傷口から滴る赤が気に入らない。
繰り返される平穏の中でそれは酷く鮮明で、程度の低い雑魚相手に傷を負う程、このひとは一体何に気を取られていたと言うのか。

煙る煙が目に染みる。

今回のシミュレーションのレベルは“赤い悪魔”と畏怖される戦士にとって決して高い物では無かった。

「最近、腕が鈍ったんじゃないスか?」

滴る赤を清潔な布で拭い手当てをして行く。
少しばかり手付きが粗雑になるのは、返事の返らぬ事への苛付きからか。
戦場ならば確実に死んでいた筈だ、戦場での戦闘はボタン操作一つで中断出来るゲームとは違う。
そんな事は前線に立つこのひとが誰よりも承知している筈だと言うのに。

弾は右腕を掠め、戦士の命とも呼べる銃が宙を舞い、乾いた音を立て床に落ちた。
小さな呻きに一瞬目を見張り、直ぐ様中断のボタンを押した。
次の攻撃パターンは頭に入っていた、自作のシステムは状況に応じた攻撃をする様に仕組んである。

“敵の隙を見逃すな”と。

当然、次は確実に相手の左胸か眉間を狙う。
情けなど戦場にありはしない、そう言って戦場と変わらぬ状況や敵の攻撃をシステムデータに求めたのは他の誰でも無く、目の前で俯いているこのひとでは無かったか?
煮え切らぬ感情を持て余し、煙草の先を灰皿に押し付け潰す。
ぬるま湯に浸っていると言っても良い、今のこの状況を。
根っからの戦士で在るこのひとが、地球の平穏と言う毒にやられてしまったのならば、俺にとって余り喜ばしい事じゃない。
伸ばした指先で顎を掬い、顔を上げさせた。
歯痒さが顔を擡げる。

「…酷ぇ面」

不安と罪悪に潰されてしまいそうなそれは、戦士には不似合いな脆さが滲んでいた。
返答は変わらず聴けない儘、時間だけが静かに過ぎて行く。

頬を撫でたのは無意識だった。
瞬きを幾度か繰り返し、虚ろだった相手の瞳がこちらを捉え映す。
魅入られてしまいそうな赤い瞳に、今にも零れてしまいそうな程涙が滲んだ。
胸を小さな棘が刺したが、それに気付かない振りをして相手の瞳に唇を寄せる。

目尻に溜まった雫を舌先で舐め取り、小さく震えた身体を強く腕の中に捉えた。





「も…やめ…、っ」

やめろ、と最後まで紡げない縺れた舌が忌々しい。
指を相手のそれで絡め穫られ、力の入らない指先では逃れる事すら出来ない。
寄せられた唇は、目尻に始まり、額、頬、そして唇へと落とされて行った。
螺旋に渦巻く過去を悔いる思いを拭うかの様に、優しく触れる唇と柔く頭を撫でる手のひらが心地好いと感じてしまう。

利用してしまっている、このおとこを。

ルールの無い無法地帯で、時折見せる優しさに思考を甘く溶かされる。
歴史を変える能力など持ち得ない、だから背負う事でしか出来なくて。
狼狽を隠す知恵も知らず、それでも前へと進まなければ。





「忘れちまえヨ、今だけ」

― ヲ前ニ縋ル事ヲ笑ッテクレテ良イ ―

「…ん、」









“戦士に休息は必要ですか?”



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